Members Column メンバーズコラム

企業文化における伝承と融合について

村瀬幸一 (キャリア形成・リスキリング支援センター)  Vol.711

企業内人材育成におけるキャリア面談の必要性と可能性

私は今キャリアコンサルタントとして、厚生労働省事業「キャリア形成・リスキリング支援センター」に所属し、主に企業の従業員の皆様を対象に人材育成事業として関わっています。

社歴が100年を超えるある企業の人事担当の方とお話をさせていただきました。
その時にお話を頂いたのは「結局は人づくり。これまで長年培ってきたノウハウやスキルなどを、次世代に伝えるような取り組みをしていきたいのだが。」とご相談を受けたのです。
その時にお話しさせていただいたことは、従業員の「キャリア」をお伺いし整理をすることによって可能なのではと提案させていただきました。

■キャリアとは
皆さん「キャリア」と聞かれたとき、どのようなイメージを持たれるでしょうか?

高級官僚?
バリバリ仕事が出来る女性?
自転車等の荷台?
はたまた携帯電話会社?

色々な所で「キャリア」という言葉が使われており、混乱される方もいらっしゃるかもしれません。
もしかすると転職?と考える方もいらっしゃることでしょう。

厚生労働省による「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖と説明されています。
主に「職業生涯」や「職務経歴」などと訳されます。つまり、働いてきた方はどなたでも確実に「キャリア」は積みあがっているということです。
ちょうど、船の一番後ろから見える航跡が「キャリア」のようだと例えられることもあります。

■転職とキャリア
転職の時に「キャリア」を振り返るのは、転職という人生の転機において、積み上げてこられた「キャリア」を振り返り、確認することによって、就職する確率をあげるということです。ところが、転職を経験されていない多くの方は、「キャリア」を振り返ることで転職してしまうと早合点される方が多いのも事実です。決して、「キャリア」を振り返ったところで転職に繋がる事はありません。

■大学でのキャリアに対しての取り組み
平成22年に大学設置基準が改正され、それまでの「進路指導室」から「キャリアセンター」の設置へと方向転換されました。

「進路指導室」と「キャリアセンター」の違いはなんでしょう?

「進路指導室」は、就職することを目的にするものに対し、「キャリアセンター」は学生が自らよりよいキャリア形成をしていけるように支援することを目的としています。
つまり、最近の大学生はキャリア教育を受けて卒業しているという事です。
企業としても、今後社員のキャリアに対しての取り組みが必須になることを示唆されています。

■企業内でのキャリアに対しての取り組み
残念ながら、35歳以上の方はキャリア教育を受けられてこられていないため、自ら自律的に、主体的にキャリア形成をしなければいけないということが肌感覚で理解できません。このことが、前述の通り「キャリア」に対しての誤解や思い違いを受ける結果になっています。
(会社の言うとおりに働けと言われ続けていた方が多いため、仕方がない所がありますが)

法的にも企業内で、キャリア面談を中心とした人材育成が求められています。職業能力開発促進法、第十条の三において、「労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能及びこれに関する知識の内容及び程度その他の事項に関し、情報を提供すること、職業能力の開発及び向上の促進に係る各段階において、並びに労働者の求めに応じてキャリアコンサルティング(面談)の機会を確保することその他の援助を行うこと。」とあり、キャリアプランを描いたり、能力開発に取り組むのは個人の責任となり、個人のキャリアプランの実現を支援する、能力開発を支援することは会社の責任と明示されています。これらは、終身雇用制度の崩壊を意味します。
では企業内で、どのようにキャリアコンサルティング(面談)を導入すればいいのでしょうか?

■セルフ・キャリアドック
セルフ・キャリアドックという仕組みの導入が考えられます。セルフ・キャリアドックとは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取り組み、また、そのための企業内の「仕組み」の事です。

わかりやすく言うと、一人ひとりとキャリア形成についての面談を進め、その方の「キャリア」や「ライフ」を確認しつつ、社内コミュニケーションや組織の課題などを確認する作業です。
キャリアコンサルタントは、倫理規定により守秘義務を背負っているため、個人が特定されるような報告が出来ません。これにより、個人のプライバシーに配慮しつつ、組織との関わり方や個人のキャリア形成にアプローチできるという事になります。

■自己理解と組織の適合性の関係
企業内の面談を進めるにあたり、確認しなければいけないことは、自己理解と組織への適合性(アダプタビリティ)の兼ね合いです。
自己理解も組織への適合性も低いと、硬直、指示待ち、つまりぶら下がり社員です。
自己理解が低く、組織への適合性が高いと、順応、風見鶏と言われます。こんな方、昭和から続く管理職の方に多いですね。
自己理解が高く、組織への適合性が低いと、無気力、停滞、逃避です。ここを放置していると、離職につながります。
自己理解も組織への適合性も高いと、積極的行動や好業績に繋がります。セルフ・キャリアドックが目指すところは、ここになります。

■企業文化における伝承と融合
どの企業にも、これからの持続と承継という命題があると思います。
これまで蓄積されたノウハウや文化を次世代に伝える事は、実はなかなか難しく頭が痛い課題とも言えます。
キャリアコンサルティング(面談)や、セルフ・キャリアドック制度を活用することにより、これまで個人で培われたキャリアを棚卸しつつ、暗黙知を形式知に変えていくことで、企業文化の伝承や融合に昇華することも可能です。
また継続的な面談実施により、従業員満足度やモチベーションの向上、離職率の低減、企業としての課題発見や解決が期待できます。

是非一度、キャリアコンサルティング(面談)の企業内導入をご検討ください。

キャリア形成・リスキリング支援事業
https://carigaku.mhlw.go.jp/

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