Members Column メンバーズコラム

環境化学のミライを語る

寳來佐和子 (鳥取大学 地域学部)  Vol.275

寳來佐和子

皆さん、こんにちは。鳥取大学の寳來です。2012年からKNSに入会したものの、定例会に中々参加できずにいます。しかし、KNSの価値は分かるからこそ、繋がっていたい・・・、ということで、今回、コラムという形で皆さんにお会いします(笑)。

先日、札幌で第24回環境化学討論会という学会が開催され、参加してきました。
皆さん、「環境化学」ってご存知ですか?平たく言うと、私たちの身の回りに存在するあらゆるものを分析して、その環境が健全かどうかを評価する学問です。具体的にいうと、ヒトやペットの食品、化粧品、土壌、大気、家の中のホコリ、水、植物、動物などなど、幅広く様々なものの中にどのような汚染物質(農薬や除草剤、防腐剤、人工甘味料、抗生物質、難燃剤、重金属類などなど)がどの程度含まれているかを明らかにして、汚染実態やヒトや環境に及ぼす影響を評価するわけです。これを「環境モニタリング」といいます。

1950年代、日本は高度経済成長期の真っ只中にあり、人々はアグレッシブに生産活動を続けていました。そのしわ寄せとして公害病が発生したことは皆さんもご存知かと思います。公害病が発生した理由のもう一つは、環境を監視する「環境モニタリング」が未熟だったからでもあります。現在の日本において、化学物質による公害はもはや過去の汚点でしかなく、未然の防止策が施されます。しかし世界、とくに発展途上国においてはいまなお、公害で苦しむ地域があります。なぜ、現在の日本では公害を防止できるのか、それは「環境モニタリング」が十分に発揮されているからです。環境化学者は、いや少なくとも私はそこを担っているという自負があります。その一方で、これでいいの?という疑問も抱いていました。環境中のいろんなものを測って、リスク評価して「ここには深刻な汚染がある!」とか「この辺の生態系への影響は低い」とかこれでいいの?「環境モニタリング」の先には何があるのか、何をするべきなのか。環境化学にはどのような未来(発展)があるのか。そんな苦悩を抱きつつ私は研究を続けて参りましたが、ある環境化学者が声を上げました。「現状でいいのか?いや駄目でしょう!」

前置きが長くなりましたが、環境化学討論会を主催している日本環境化学会の会員数は平成23年に1047名でしたが、平成24年には1013名、平成25年933名、平成26年876名と減少の一途をたどり、平成27年3月時点で870名になっています。学会の規模としては小さい方に入るかと思います。そして今回の学会で、声を上げた研究者を中心に集まって意見交換してみると、多くの環境化学者が同じようなカベに苦悩していたという事実が発覚しました。「環境化学」の何が良くて、何が悪くて、どこに課題があるのか。仲間内である学会員達から、環境化学者たちのプライドをこっぱみじんに破壊するような爆弾発言が飛び交いましたが、みんなが乗り越えなければならないカベを認識していたため、素直に批判的意見にも耳を傾けることができ、環境化学会の未来のために討論しました。
「環境化学」の未来について、分野横断的な視点で話し合った結果、様々な問題点が浮上してきました。そして、それら問題点への解決策として出た意見の一部が下記のとおりです。
・他分野との交流・協働
・産官学での運営
・中小企業も参加できる環境作り
・政策貢献
・次世代の育成

そして、以下のような短期的、また中・長期的目標が生まれました。
・他学会との合同セッションやシンポジウム、ワークショップ等を開催しよう
・分野横断的な場を作ろう
・参加者に魅力ある学会にしよう
・若手研究者にメリットのある学会にしよう
・企業が活用できる学会にしよう

環境化学会は小さな組織です。そして顔見知りが多いため、人と人が繋がりやすい学会でもあります。ですので、比較的容易に新しい取り組みにチャレンジすることが可能です。できることなら、このコラムを読んで「環境化学」に興味を抱いてもらえると嬉しい限りです。そして、来年あるいはこれから先の近いうちに、KNSの方と協働でシンポジウムやワークショップを開催する日が実現することを願っています。「環境化学」と「KNS」あるいは「X in KNS」の化学反応で何が生まれるのか、それを考えると環境化学に明るい未来が見える気がします。今後とも、どうぞよろしくお願いします。

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