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「耐震で安心 TAIAN PROJECT」のおはなし

平山知明 (神戸市住宅都市局耐震推進課)  Vol.395

平山知明

1.はじめに
本稿が掲載される今日は、あの日から23回目の1月17日を迎えます。
今回は、大地震を現役の公務員として経験した者として、現在、地震に関連した業務、住宅の耐震化促進に担っている者として、皆さんに知っていただくと良いなと思うことを中心にお話したいと思います。

2.すまいの耐震化のススメ
1995年(平成7年)1月17日(火曜)午前5時46分、阪神・淡路大震災によって、そこにあったくらしと共に多くの生命が一瞬にして失われました。

この地震によって直接的に亡くなられた方のうち、約8割の方が住宅の倒壊などが原因による圧迫死であったことが判明しています。
その悲劇を二度と繰り返さないためには、安全・安心なすまいづくりが重要になります。
多くの人にとって、生活を送る上で長い時間を過ごす場所が「すまい」であることから、すまいの耐震性を確保することは、人命や財産を守り、避難生活等の大変さを再び経験しないための第一歩となります。
また、現在、地震は全国的に活動期であるといわれており、阪神・淡路大震災の後も東日本大震災や熊本地震などの大地震が発生しており、いつ、どこで起っても不思議ではありません。
大地震時に在宅で命を落とさないために、また、あなたと、あなたの大切な人・家族を守るためには、まず「自分のすまいを知る」ことが大事であり、その状況に応じて「すまいを丈夫にする」「すまい方を工夫する」ことが必要になってきます。

3.耐震診断・耐震改修・家具固定
読者の皆さんの多くはご存知かもしれませんが、1981年(昭和56年)5月31日以前に着工された住宅は、建築基準法改正前の旧耐震基準で建てられています。
そのため、耐震性が低い建物が多く、耐震診断を受けたこれら住宅の約8割が「倒壊する可能性がある」と判定されています。
1981年の建築基準法の改正は、1978年の宮城県沖地震による甚大な建物被害を契機として行われたもので、すまいの耐震基準がその前後で大きく異なっています。新耐震基準は、「震度6強から7に達する大規模地震で倒壊・崩壊しないこと」「震度5強程度の中規模地震ではほとんど損傷しないこと」が求められており、簡単に説明すると「大地震が起きても人命に関わる甚大な被害が出ないこと」と言うことができます。
皆さんがご自宅の耐震性がどうなのか知りたいと思えば、まず建築士による「耐震診断」を受けていただくことになります。
誰に頼んだらよいか分からないと言う場合、1981年(昭和56年)5月以前に建てられたお住まいの場合、多くの自治体では耐震診断にかかる経費に対する補助制度や自治体が無料又は一部の少額自己負担で耐震診断を実施する制度を用意しています。
この耐震診断は、耐震改修が必要かどうかを判定することが目的であり、言わば「すまいの健康診断」と言えるものです。この耐震診断ですまいの安全性を確認し、改修の必要性を判断することになります。
耐震診断で「危険」と判定された場合は、耐震改修工事を行うことが必要になってきます。
多くの自治体では、1981年(昭和56年)5月以前に建てられたすまいの耐震化に取り組む方に対する支援として、これら耐震改修工事費や耐震改修計画(耐震設計)策定費に対する補助制度を運用しています。
基本的には、耐震診断の結果、「安全性が低い」又は「安全性がかなり低い」と判定された住宅を「安全性を確保しているもの」にまで引き上げ大地震に耐える本格的な耐震改修をされる方に対して計画策定費や工事費の一部を助成する制度になっています。
しかし、一方で、耐震改修に余り費用がかけられないといった要望も根強いことから、耐震診断の結果、「安全性が低い」又は「安全性がかなり低い」と判定された戸建住宅を「一定の耐震性を確保しているもの」にする「瞬時に倒壊に至らない」程度の耐震改修をされる方に対しても計画策定費や工事費の一部を助成する制度を運用している自治体もあります。
加えて、あと何年住むか分からない住宅に手を掛けられない、普段の生活は台所と居間しか使っていない、といった市民の声に答えるため、耐震診断の結果、「安全性が低い」又は「安全性がかなり低い」と判定された戸建住宅について、住宅そのものに改修を加えるのではなく、住宅が倒壊しても、安全な空間を確保する防災ベッドや室内に設置する簡易型のシェルターその他の装置の設置に要する経費に対して補助する制度、いわゆる防災ベッド等設置補助を用意している自治体もあります。
皆さんのご自宅、あるいはお身内やお知り合いの住宅が1981年(昭和56年)5月以前の住宅である場合、お住まいの自治体にある「すまいの耐震化担当窓口」、例えば耐震推進課や建築指導課といった名称の部署等に一度ご相談されることをお勧めします。
また、阪神・淡路大震災では、住宅そのものの被害が少なかった住宅においても、家具や家電製品が転倒・散乱したことによる負傷や、避難経路や救出経路がふさがれたために避難や救助が遅れたことが報告されています。
家具や家電製品を壁に固定する、家具が倒れてきても下敷きにならないように配置を工夫する、不要な家具・家財を処分する(断捨離)、家具の上に危険物や重量物を置かない等、すまい方の工夫を含めて誰でもが容易にできることを行うことが減災への第一歩といえます。
これらの対策は、今直ぐにでも、誰でも実行可能で、お住まいが旧耐震基準であろうとなかろうと関係なく取り組んでいただくと良いかと思います。

4.「耐震で安心 TAIAN PROJECT」
さて、ここからは、少し筆者の現在の仕事に絡んだ宣伝をさせていただきますね。
筆者の所属する神戸市では、住宅耐震化の支援制度の運用や普及啓発にこれまで努めてきた結果、平成25年(2013年)住宅・土地統計調査(総務省統計局)結果による推計で市内の住宅の耐震化率は91%を達成しています。
一方で、耐震化率が90%を超える中、これまで耐震化に取り組まれていない住宅には、所有者の高齢化の進展等から、住宅の耐震化に向けた取り組みが困難なものが多くなってきていると考えられ、また、居住人口の減少から住宅総数の伸び自体の鈍化も見込まれています。
そのため、耐震化率を上昇させることがより困難な曲面に直面しています。
そこで、耐震化率のアップだけが全てではないのですが、現在住宅をお持ちの方だけでなく、近い将来、相続や二世帯居住、中古住宅の売買等を通じて旧耐震基準住宅の所有者になる方に対しても、現時点では自分の問題として直接的に認識していないすまいの耐震化の重要性について知ってもらう、気付いてもらう機会や切っ掛け等を作り出そうというプロジェクトを平成28年度(2016年度)より進めています。
「耐震で安心TAIAN PROJECT」と銘打て、すまいの耐震化促進の普及啓発を改めて行っているのですが、このプロジェクトを進めるに当たっては、KNSでの人と人との繋がりが大いに役立っているとともに、助けていただいています。
最後になりましたが、昨日1月16日(火)から26日(金)まで神戸市役所1号館2階「市民ギャラリー」において「すまいとくらしの安心・安全 未来展」と言う企画展をこのプロジェクトの一環で開催しています。すまいの耐震化をはじめとした災害に強いすまいづくり・まちづくりに関する展示を、少しお役所っぽくない形で行なっています。
ご興味の有る方も無い方も是非一度、会場まで足を運んで見てくださると幸いです。

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