Members Column メンバーズコラム
ごみを拾うその2「E.Cオーシャンズ岩田代表との1週間」
萩原 辰夫 Vol.706
美しい瀬戸内海の島々に点在する「漂流ゴミ」をご存じでしょうか。毎日ゴミが海に流れ出し、一部のゴミが島に流れ着き蓄積していく現状があります。美しい瀬戸内海の風景とは裏腹に、島へ行ってみると多くの生活ゴミや産業ゴミが打ちあがっています。これは、遠くからでは確認できず、私たちは気づきもしないのです。
環境問題については社会の意識が向上したと言います。「SDGs」「エシカル消費」「マイクロプラスチック」「循環型社会」など、普通に暮らしていても環境ポスターや企業・団体の取り組みPRなどを目にする機会が増えました。しかし、実際に個人や企業の行動や意識は変わったのでしょうか?「ごみを捨てるな!」という言葉は一般常識のように思われますが、実は一般常識ではないことを活動を通じて知ることとなりました。
そもそも「ごみ」とは何なのか?
「人工産物が使えなくなったもの」もしくは「作ったが興味を失ったもの」という表現が近いのかもしれません。人間が大量に生産し、廃棄していく世の中の仕組み。便利なもので溢れ、生活が豊かになったと思う反面、自然界には多くの負荷をかけています。「ごみ」という言葉は、そんな中で生まれた言葉かもしれません。
今回密着させていただいた岩田さんは、E.Cオーシャンズの代表理事で、この事業は2018年に一般社団法人として設立し、「船でしか上陸できない」浜辺や無人島の漂着ゴミの回収・処分を行うプロ組織です。年に1回ゴミを拾えば終わりではなく、常に排出され続けるゴミが島々に漂着し続けるため、事業として進めていく必要があると判断されてのことだそうです。 1週間休暇をとり岩田さんの日々の活動に密着しました。以前より、参加型の企画には参加していましたが、それは年1回のイベント。毎日のこととなるとどれくらい大変なのかを知りたくお願いさせていただきました。
ゴミの回収方法
【事前調査】船による事前調査を実施します。具体的なごみの量を計測するため、上陸しての作業となる場合があります。確認しただけでも数百箇所に漂流ゴミがあるとのことです。
【回収作業】その日の天候を見て船で回収に向かいます。船1回で約90kg程度しか運び出せません。
【荷揚げと積替え】船からトラックへ積替えを行います。何度も往復しながら重いゴミを持ち上げます。大規模清掃の場合は、集積場を設けそこから何度も処分場へ往復します。
【処分場への運び込み】処分場へ事前連絡を行い運び込みます。主には産業廃棄物に該当するものが多く、事前連絡なしでは受け入れが難しい場合があります。また、自治体によっては受け入れができない施設もあり、自治体との連携が必要な場面でもあります。
初日:八幡浜市佐島(無人島) 八幡浜市から5km西にある佐島へ上陸しゴミの回収作業を行いました。佐島を一周し回収場所を確認します。佐島には多くの野生生物が生息しており、所々でミサゴが営巣しています。彼らに配慮した作業が必要となります。岩礁もありゴミ一つ回収するだけでも危険を伴う作業です。
2日目:八幡浜市大島(有人島) 八幡浜市港から12km南にある有人島への調査と清掃活動を行いました。現地の方々もこれまで清掃活動に協力されていましたが高齢化のため、年々過酷な作業には参加できない方が増えています。活動の傍ら、島の自然を見て回るのも一つの楽しみであり、自然を愛する気持ちがより一層清掃活動に力が入ります。
3日目:伊方町三机の御所が浜 地元で清掃活動するグループとの共同作業を行いました。御所が浜は島ではありませんが、想像を絶する量のゴミが集まっており、いくら拾っても無くならない場所です。地元の活動グループは日ごろから清掃活動を継続されていますが、この日は岩田さんの講演も兼ねての活動となりました。
4日目:啓蒙活動(団体への講演) この日は雨。活動団体からの要請で環境問題に関する講演があり、タイミング的にはよかったかもしれません。テーマは保水問題と海ごみ問題。自然破壊はゴミだけではなく、必要以上に作られた人工物によって保水力を失った土地の問題。無言で死んでいく生物への代弁として岩田さんは語っていました。
5日目:地元議員の勉強と奉仕を兼ねての活動 新人地元議員を乗せ佐島のゴミスポットへ。風や波、海流などの影響によりゴミがたまりやすい地形があり、そこには、おびただしい発泡スチロールのトロ箱が森の奥深くまで入り込んでいました。4人作業となれば、回収量も4倍になりますが船で運び出すには難しく一時的な集積場所を設け山積みにしました。
6日目:再び地元議員と活動 この日は経験のある地元議員の参加。この日も佐島での作業。砂浜一帯にある養殖用の大きなブイなどを回収して周りました。長靴を履いての作業ですので、足腰にかなり負担がかかります。6日目にして体も大分痛みが増してきました。
7日目:愛南町での大規模清掃プロジェクトの事前調査 長期間にわたり愛南町の海岸数十か所の大規模清掃を行うため、役場や漁協、地元協力者への打合せを行うため、トラックで2時間かけて現地を周りました。回収後の荷揚げ場所やストック場所の確保と確認、そして入り組んだ地形を走り浜の状態など確認して周りました。大量のゴミが溜まっていても場所によっては事情により回収できない場合もあり地域との協力体制などが重要だということを知りました。
8日目(最終日):八幡浜湾内と再び佐島 最終日は突き抜けるような晴天。ゴミ回収作業は少なめに、島でゆっくり過ごしました。海と島それ以外に何もなく、ただ海を眺める時間。自然界と人間について改めて考える時間でもありました。8日間で約380kgのゴミを回収しました。
さいごに
岩田さんは言います。「なすすべもなく無言のまま死にゆく生物たち、身近な自然のためにできることをする。」人間本位の世の中でこれを理解し共生するにはどうすればよいのでしょうか。まずは、身近な自然環境を愛することから始めると自然とうまくいくように思いました。 当たり前の言葉にはなってしまいますが、一週間の密着を通じて、自然を愛する心、そして自分を愛することが大切だと思いました。
過去に「ごみを拾う」のテーマにコラムを書きましたが、今回はさらに深い記事となりました。過去のコラムはこちらです。https://kns.gr.jp/hagiharatatsuo20201125/