Members Column メンバーズコラム

森林環境税と森林環境譲与税のこと

出水孝明 (株式会社ミカド開発)  Vol.744

KNSの皆様、こんにちは。福井から参加させていただいております出水でございます。

久々のメンバーズコラムだと思うんですが、何回目かは忘れてしまいました。

たぶん4、5回目だと思います。

 

さて、皆様は昨年(2024年)から「森林環境税」が課税されていることにお気づきでしたか?

森林環境税は、国内に住所を有する個人に対して課税される国税で、市区町村において、個人住民税均等割と併せて1人につき年額1,000円、全体で約600億円が国税として徴収されます。

実は、一昨年(2023年)以前は、都道府県民税と市区町村民税には、東日本大震災復興基本法等に基づき、それぞれ500円ずつ計1,000円が上乗せされていましたが令和5年で終了しました。

替わって、森林環境税1,000円が徴収されることになり、個人の負担が増えたわけではないので、気付きにくいのかも知れません。

 

この森林環境税が何のために徴収されているのかについては、総務省のウェブサイトによりますと、

「森林には、国土の保全、水源の維持、地球温暖化の防止、生物多様性の保全などの様々な機能があり、私たちの生活に恩恵をもたらしています。しかし、林業の担い手不足や、所有者や境界の不明な土地により、経営管理や整備に支障をきたしています。森林の機能を十分に発揮させるため、各地方団体による間伐などの適切な森林整備が課題となっています。

 このような現状に加え、パリ協定の枠組みにおける目標達成に必要な地方財源を安定的に確保する必要が生まれ、森林環境税及び森林環境譲与税が創設されました。なお、森林整備が緊急の課題であることを踏まえ、森林環境譲与税は、2019年度から前倒しで譲与することとしています。」

と説明されています。

日本は国土面積の約3分の2が森林であり、森林はCo2の削減や土砂災害の防止などの機能を持つとともに、私たちの生活を守る木材の供給減となっています。

しかしながら、森林はしっかりと整備されなければ、それらの機能や役割を十分に発揮できません。

 

その大切な森林整備のために国から都道府県、市区町村へ譲与されているのが「森林環境譲与税」です。

森林環境税の収入額に相当する額は、私有林人工林面積、林業従事者数、人口といった客観的な譲与基準によって、全額が森林環境譲与税として譲与されています。

ちなみに、森林環境税は2024年から徴収されていますが、森林環境譲与税については、森林整備が喫緊の課題であることを踏まえ、前倒しで令和元年から譲与されています。

全国から徴収された約600億円の森林環境税が、市町村に約90%、都道府県に約10%の割合で譲与され、市町村においては、間伐等の「森林の整備に関する施策」と人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の「森林の整備の促進に関する施策」に充てられ、都道府県においては「森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用」に充てることとされています。

 

では、関西の府県と市町村でどれくらいの森林環境譲与税が譲与されているのか、2024年の数字を見てみましょう。

                                                                 (単位:千円)

 

府県分

市町村

滋賀県

54,463

490,177

544,640

京都府

116,852

1,051,668

1,168,520

大阪府

129,635

1,166,706

1,296,341

兵庫県

193,064

1,737,592

1,930,656

奈良県

131,322

1,181,892

1,313,214

和歌山県

159,142

1,432,304

1,591,446

福井県【参考】

72,510

652,595

725,105

日本一森林面積が小さい大阪府の私有林人工林面積は約27,440ヘクタールですが、人口の多さにより、約13億円の譲与を受けている一方で、【参考】でご紹介した私の地元福井県は、私有林人工林面積は約117,734ヘクタールと、かなり大きい数字なのですが、人口が少ない分、約7億円になっています。

森林環境譲与税は森林整備が主たる目的というのであれば、人口割っていう譲与基準はおかしいように思うのですが、建物や家具、発電などでの木材利用は森林資源の有効活用に大いにつながる、というのが理由のようです。

森林環境譲与税の特徴のひとつに使途が森林整備に限られているということがあります。

都道府県、市町村にはインターネットなどを利用してその使い道を公表しなければならないとされています。

そこで、総務省のウェブサイトで取り上げられた関西での2023年の活用事例をご紹介します。

 

〇滋賀県日野町(竹木破砕機利用費補助金)

 生産森林組合、自治会又は町長が適当と認める団体が、里山・竹林整備を行う際に伐採(伐竹)及び剪定された枝や竹を破砕する竹木破砕機の賃借に要する経費に対し、予算の範囲内で補助金を交付する。

〇京都府福知山市(循環型森林整備モデル事業)

 福知山市上夜久野地域において、モデル地区を設定し、地元自治会(森林所有者)、林業事業体、市とで3者協定を締結し、自治会の共有林において、主伐・再造林を実施した。

〇兵庫県佐用町(町有林化促進事業)

 所有者による経営管理が困難な山林の町有林化を促進することにより、将来にわたり健全な森林として経営管理するとともに、所有者不明の森林や放置森林の解消を目的として、山林の引き取りを行う。

〇和歌山県新宮市(旧版空中写真を利用した森林整備の推進)

 ・森林の地形・林相界等を推定境界とした「林相界復元図」を整備。

 ・撮影当時の林相、地形(尾根、谷、微地形)等が詳細に記録されている国土地理院、林野庁の旧版空中写真を利用することで、それらを精密に図化にて復元し、地番を表記。

 ・地番は、公図・施業図等を旧版空中写真に重ね、地形、林相等との位置関係を利用して編集。

〇和歌山県田辺市(森林の育てびと育成・確保対策事業)

 ・現場作業員を新たに雇用した林業事業体に対して、森林経営管理制度に基づき実施する間伐施業を、特別枠として優先的に配分。

 ・一定期間の安定した事業量を確保することで、OJTを通じた林業従事者の育成と確保を図る。

〇奈良県五條市、吉野町、黒滝村、野迫川村、東吉野村(奈良県フォレスターの市町村への派遣)

 ・奈良県では、県職員として採用した者を「奈良県フォレスターアカデミー」で2年間修学させ、森林環境の維持向上に関する専門的な知識、それを実践できる技術、技能を習得させた後、「奈良県フォレスター」として市町村に長期間派遣。

 ・令和5年度から7名の奈良県フォレスターを7つの市町村に派遣しており、このうち5つの市町村においては、派遣に係る人件費に森林環境譲与税を充当。

〇京都府綾部市(地域産材を活用した新図書館の木質化)

 複合施設(図書館等)における備品等の木質化

〇大阪府茨木市(公共施設の木質化による木材利用の推進)

 文化・子育て複合施設「おにクル」の整備に当たり、「茨木市木材利用方針」に基づき、一部国内産材を活用し、内装及び家具の木質化を実施。

〇大阪府柏原市(森林関係人口の増加に向けた取組)

 ・柏原市森林保全検討会の開催

 ・柏原市森林循環フォーラムの開催

 ・学生による森林循環プログラム「柏原森学生(モリガク)」の任命及び活動支援

〇兵庫県神戸市(森林整備や木材活用の推進に向けたプラットフォームの設立・運営)

 ・神戸市の森林整備・伐採木等に関する情報を共有

 ・木材活用に関するリスクをステークホルダーで分散する仕組みを検討

 ・森林や木材活用に関わる新たな公民の活動を誘発

〇大阪府豊中市(自治体間連携による環境学習)

 ・隠岐の島町においては、小学4年生~6年生20名が現地に赴き、木材を利用した町役場の庁舎、木質バイオマスペレット工場の見学や、森林の散策、クラフト体験を通じ、木材に親しむプログラムを実施。

 ・能勢町においては、小学3年生~6年生の親子9組が間伐体験を通じ、森林保全の重要性や地球温暖化との関係を学んだ。

〇京都府(森林経営管理制度の説明動画の作成)

 意向調査前の地元説明会等、市町村職員が森林所有者に制度の説明を行う際に活用可能な説明動画を作成した。

 

森林環境税、森林環境譲与税と2018年に制定された「森林経営管理法」によって、これまで採算上の問題などによって放置されてきた森林が、市町村や民間の企業・団体による間伐などの森林整備が適切に進められることが期待されています。

そうすることで、森林吸収率の維持や増加が図られることに加えて、森林整備の際に発生する間伐材等の従来の木材としての利用促進、木質バイオマス発電や熱利用など、林業の成長産業化へつなげることも可能です。

そうした点から、「大阪・関西万博」の会場でも、非常に多くの木材が使われています。

今後も、日本の約66%を占める森林を守り育て、森林から生まれる資源を最大限有効に活用できるよう取り組んでまいりましょう。

せっかく2年ちょっと林業に関わる会社にいますので、関連したテーマで書かせていただきました。

PAGE TOP