Members Column メンバーズコラム

本質を見抜く時代

天米一志 (株式会社五星 パブリックマネジメント研究所)  Vol.196

天米一志

リッツカールトン大阪や阪急阪神ホテルズの食材偽装は、記憶に新しい出来事です。社会的な信用を得ていた方々の裏切り行為は、現代社会において数えきれないかもしれません。先日、ある紅茶専門店を経営する方と知り合い、その経営者との会話の中で、世の中の本質を見抜く大切さと難しさを同時に気づかされました。また、知り合った方が経営する紅茶専門店では、「本物」を追求するがゆえに新しい価値を発見していることも教えられました。

ある時、海外へ紅茶を買い付けに出向いた際に、手に取り品質を確認していると、大きな倉庫に積まれている葉を見せられ、「買うか?」と問われたそうです。どう見ても処分するか肥料にするしかないような葉であることは、すぐに認識でき、「とんでもない」と答えたところ、「日本の大手フランチャイズの店がこれをごっそり買っていく」と教えてくれたそうです。多くの日本人が好んで利用する店であり、紅茶として使えない葉に現地で香料を加え、それを日本に運び沢山の日本人に提供していることになります。最近は、スーパー等で売られている商品には、原産地の記載があり、消費者は確認して購入することができますが、有名ブランドのお店では、その品の原産地について確認することができません。お店を信頼するしかないのですが、リッツカールトン大阪や阪急阪神ホテルズのように信頼しているお店が偽装していると、残念ながら消費者は見抜くことが出来ません。
「良い物を安く」は、ある意味、論理的な矛盾の表現だと感じます。「良い物は高い」という方が論理的矛盾なく想定可能なことなのです。
全国の地域の価値創造に東奔西走していると、いろいろな現象を目にします。その中で建物にも本質を見抜かなければ、未来に大きな負担を残すことを教えられた事例があります。それは、リゾートマンションとリゾートホテルの合築された建築物です。おそらく建てられた当初は、斬新な発想で建築されたと思いますが、築年数が経つにつれて様々な環境変化に巻き込まれます。リゾートホテルは、集客力が低減し、建物も劣化していきます。そこであの手、この手と建物の改修や企画を行いますが、ホテルの収益のみでは賄えない状況に時間の経過とともに陥ります。一方、リゾートマンションは、個人の所有物件として、各所有者による修繕積立を着実に行っています。築数十年後に何が起きたかというと、リゾートマンションの修繕積立金をリゾートホテルの改修費に充ててしまったのです。性質の異なる建物を合築したが故の結末です。何か新たな物を創造する場合には、理念的な実態を適切に分析し、物事の根本となる性質を理解しなければならないことを教えられた事例です。最近は、公共施設すら合築や統廃合といわれていますが、その物が持つ性質を理解しなければ、未来にとんでもない負担となる種を、今、蒔いていることになります。合築や統廃合が良くないのではなく、どのように合築や統廃合を未来に演出するかがポイントとなります。
イメージ戦略として成功している身近な事例では、愛媛県のポンジュースが思い浮かびます。愛媛といえば「みかん」ですが、一般的に市販されているポンジュースの原材料のみかんの殆どは、ブラジル産のようです。原材料の表示がされているため、なんら問題は無いのですが、ポンジュースといえば「愛媛のみかん」と思い込んでしまうこともあります。本物のポンジュースも存在します。愛媛産のみかん100%で作られたジュースの味は、とても美味しいく、市販のポンジュースとの違いが一口飲めばわかるほどです。ただ、簡単に手に入らないことも「価値」として戦略となっています。この類の事例は、世の中数えきれないほど存在しますが、「本物の価値」として演出している事例は少ないのではないでしょうか?
現代と未来を演出するのは、今を生きている「ヒト」が行うことになりますので、少なくとも後世にプレゼントとなる負担の無い空間演出をしたいものです。

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