Members Column メンバーズコラム

ヤバそうな場所に、人は惹かれる

中塚 一 (株式会社地域計画建築研究所)  Vol.742

約10年前から、大阪のメインストリートである御堂筋(全長4.4km)の繁華街・盛り場(ミナミ)の区間で沿道地権者の方々からお声がけ頂き、道路の歩行者空間化、歩道空間の利活用、エリアの価値向上をお手伝いしています。

都市計画・まちづくりの分野では「エリアマネジメント」と言われる、地域の課題解決や持続可能な発展に向けたツールの一つです。

 

【怪しい「エリアマネージャー」という職業に出会う】

そもそも約40年前に、無謀にも建築設計からまちづくりの世界に飛び込みました。

その後、市町村単位での都市計画・住宅政策関連のマスタープラン、地域単位での住環境整備や景観計画、地区単位での再開発事業や地区計画策定など、様々なスケールでの計画づくりやワークショップ等での市民参加などを担当してきました。

転機は約10年前に参加したある研究会で、アメリカのミルウォーキー、シカゴ、ニューヨークを訪れた事にさかのぼります。20~30歳代に訪れた時に「この辺りは一人で夜歩いてはいけない」と注意された各都市のダウンタウンが、「エリアマネジメント」という手法によって、市民や観光客による賑わいを取り戻し、一人で歩いていても大丈夫な界隈に変わっていました。

そしてその要因の一つとして「この界隈(ダウンタウン)は、道路から自動車を追い出して、人が歩いたり、佇んだり、休憩したりしているのが、大きな要因となっている。」とエリアマネージャーという怪しい職業の方から聞きました。

(今は、自分がその怪しい「エリアマネージャー」を名乗っていますが(笑))

 

【ウォーカブルだけで都市は魅力的なのか?】

その後、「世界の住みやすい都市ランキング」上位の都市では、必ずと言っていいほどどの都市のダウンタウンにおいて「この辺りは車を追い出して歩きやすくなって賑わいを取り戻した」という話を聞くことが多くなりました。

いわよる「ウォーカブル・シティ」です。

一般に、都市のウォーカブル化のメリットは、①環境への配慮(車利用を削減させ、二酸化炭素排出量を下げる))、②健康促進(歩くことは健康に良い運動で、生活習慣病の予防に最適)、③経済効果(歩行者が多い地区では、集客が図られ地域経済が活性化する)、④公共交通の効率化(交通渋滞の軽減や公共交通機関の利用促進に繋がる)⑤社会的つながりの強化(歩くことで人が出会い、交流する機会が増え、地域コミュニティの結束が強くなる)といわれています。普通に聞くと良いこと尽くめに聞こえます。そして私も御堂筋では「ウォーカブルが大切」と力説しています。しかし「何だか、優等生的な答えで、それだけでは魅力的ではないなあ・・」とへそ曲がりの一方の自分が密かに耳元で囁いています。

 

【ゾクゾクする界隈へ】

歩く(walk)と出来る(able)を組み合わせた「歩きやすい」や「歩いて楽しい」というウォーカブル。確かに快適で安全・安心は重要だけれど、それだけで自分が例えば海外の都市に高い航空運賃を払ってまで行きたいのか?と問われると違うような気がします。

美しく整った景観や安全安心な街だけでは、都市の特に盛り場では物足りなくて、怪しい(確かに怪しい人(エリアマネージャー)に惹かれた)、如何わしい(旅先で疑わしい看板、建物に惹かれて入ってしまう)、胡散臭い(よせば良いのに油断できない人や状況に惹かれてしまう)体験を求めて、路地奥の横丁のバーに忍び込む自分が居ます。

例えば、モロッコの迷路のようなフナ広場界隈、バルセロナのゲイエリアと言われるアンシャンブラ地区、マドリッドの多様な文化が共生するエンバハドーレス地区、上海のリノベーションされたホテルのバーに夜な夜な集まるヒップな若者達など

どうも最低限の生命の危険は自分で守る必要がありますが、「ゾクゾクする界隈に行ってみたい」っていう感覚があるのは、人間の心の奥からの欲望でしょうか?

 

【ヤバそうな場所に人は惹かれる】

なかなかエビデンスが必要な所では書けない(KNSは良いのか(笑))のですが、一言で言うと「ヤバそうな場所に人は惹かれる」って感覚。

カッコよく言うとHOME’S総研 所長の島原万丈氏が提唱する「センシュアス・シティSensuous・City(官能都市)」。

最近読んだ書籍で、「ベルリン・都市・未来~シリコンバレーの時代は終わった。新たな都市のスタンダードは、すべてベルリンから生まれる!(武邑光裕著)」があります。東西統一後のベルリン壁崩壊から大規模再開発がスタートしたけれど、今、世界中から起業家やクリエーターなどが集まるのは、大規模開発に反対し「ヒッピー資本主義」で密かにアンダーグランにおいて継続・再生した旧東ドイツのクラブやリノベーションされた界隈とのコト。(次の旅行先はベルリンか(笑))

 

今も昔も「ヤバそうな場所での、酒と博打と○○に人が集まる」のは、どの時代もどの都市も同じだなあと感じています。

 

(一社)ミナミ御堂筋の会 エリアマネージャー

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