Members Column メンバーズコラム
わが家の息子はピンク好き
門田祐子 (株式会社ルーフ) Vol.636
みなさんこんにちは。門田祐子です。長らく交流の場から足が遠ざかっていますので、簡単に自己紹介と近況報告を。ピーターパンのフック船長にドハマり中の長男(5歳)と、自分がかわいいことを最大限利用してなんでも自分の思い通りにしようともくろむ人たらし次男(来月3歳)の母親をやっています。2年前の春に2度目の育児休暇から広告会社のプランナーとして仕事復帰。コロナで状況が一変しのんびり構えてなどいられなくなった職場でうっかり管理職を引き受けてしまい、あまりのやることの多さにキャパシティーが追い付かず、白目をむきながら毎日なんとか過ごしています。
▼ラン活?へ?なにそれ
さて「ラン活」という言葉をご存じでしょうか。ランドセル活動、つまり小学生に上がる前にランドセルを購入するための行動のこと。確かに一生に一度(本当か?)の安くはない買い物ですが、なんと大げさな! ところが、少子化の煽りなのか、最近の「ラン活」市場はスゴいことになっているのです。我が家の長男は現在年中で、来年小学生。実は、すでに2024年度新1年生の「ラン活」はスタートしています。2月上旬ごろからSNS広告が表示され始め、各ブランド2月中旬ごろからカタログの受付が開始。人気商品や限定商品などは3月中に予約終了となるものもあるのだとか!?入学まで1年以上あるのにそんな早くスタートする必要ありますかね?と思いつつも「ランドセルはやめに決めてね、買ってあげるから」とのばあばの声にも押され、とりあえず何社かカタログ請求のボタンをポチポチしてみたり、有名どころのサイトを覗いてみたり…。
ご存じの方も多いとは思いますが、女子=赤、男子=黒、の時代はとうの昔に過ぎ、現在のランドセルはカラーバリエーションが超豊富。ピンク・パープル・グリーン・キャメル、ステッチの色が違うものや裏地が凝ったもの、さらにキラキラのチャームがついいていたり、炎や車、恐竜をモチーフにしていたり、「ランドセル」という定型フォーマットをキープしつつも気が遠くなるほどの数のデザインが存在しています。さらにさらに、ここ最近の小学生の荷物は我々が子どもの時代から各段に増え重くなっているらしく、子どもの負担軽減を狙った布製ランドセルも多数登場しており、素材から色から機能性から、無限の選択肢が用意されているのです。
▼無数の選択肢がある、今のこどもたち
さて、我が家の男子たちはというと、キラキラかわいいもの、そして乗り物が大好き。長男のお気に入りのパジャマはピンクだし、つい先日、ハートが大胆にあしらわれたデザインのTシャツを見つけ喜んで購入したところ。一方自宅にあるおもちゃや絵本の7割は乗り物関連。こんな風に自身の好みのままに生きている彼ですが、何色のランドセルを選択するのでしょうか。仮にピンクを選んだとしても、親としては「自分で選んだのだから、自分で責任をもって使うのならいいよ」と言うつもりにしています。
ランドセルの色に代表されるように、さまざまなジェンダーバイアスやルールが当たり前のように存在しあるていど狭められた選択肢の中で生きてきた私たちと違い、今の子どもたちには選択肢が多く用意されています。それを「ぜいたくだ」という人もいますが、私は逆に、小さいうちから選択を迫られる状況ってなかなかハードだなと思っています。選択には責任が伴い、それを属性のせいにすることができなくなるからです。仮に息子がピンクのランドセルを選んだとしても、自分の「好き」に自信が持てなかったり、自分自身を理解し考えを表現することができなければ、「男子でピンクなんて変なの」という意見に直面した時にうまく対処できないでしょう。男として、ではなくまるはだかの自分自身としての選択や生き方を問われるのです。それも小さなうちから。これは「女子=赤、男子=黒」というルールにある種守られていた時代にはなかったことではないでしょうか。
▼バレンタインに娘の彼氏からチョコをもらう時代
とはいえ、今もまだまだジェンダーバイアスは残っています。カラーバリエ―ション豊富だと述べたランドセルも、ピンクやパープルなどのパステルカラーは明らかに女の子向けのラブリーなデザインが多いし、男の子向けのものは黒や紺を基調としたデザインが大半です。子ども服を探しても、男の子向けのピンク色の服は少なく、前述のハートをあしらった服だって、ずっと欲しかったのになかなか良いのが見つからなかったのですから。近所の小学校では帽子の形が男女で分けられていますし、保育園では男女で体操着の色が違います。親や周りの大人は物心つく前から息子たちに乗り物関連のものを与えてきたし、そこら中から「男の子2人は大変でしょう」と声をかけられます。こちらはフック船長ドハマり長男と人たらし次男が大変なのであって、「男の子2人」が大変なのではないんだけど・・・。
一方で、多様性を認める世の中への変化もたくさんあります。教育テレビでは「おかあさいっしょ」という長寿番組とともに「おとうさんといっしょ」という番組も存在。アニメ機関車トーマスも女の子キャラクターが増え、多国籍になりました。ここ数年はSDGsをテーマとした「違いを認め合う」という趣旨のプログラムもどんどん増えています。TOHOシネマズは2021年にレディースデイを廃止。バレンタインデーも「女性が男性にチョコレートを渡す日」としての意識は、特に若者の間で薄れています。わが上司は「バレンタインデーに娘の彼氏からチョコもらってん」と言っていたし、うちの会社の20代男子ははスキンケアに熱心で、私なんかよりよっぽど美意識が高いですしね。
▼「決めつけ」たら、あかん。
さて、ネットショッピング大手の楽天市場には「ママ割」というサービスがあります。子どもの情報を入力すると育児用品などが割引になる制度で、男女関係なく登録でき私もお世話になっています。ポイントもつくし割引もありがたい、翌日届いたりして本当に便利。ですが、オムツや育児用品を買うのは「ママ」だけ?子育てで大変な思いしているのは「ママ」だけ?それって決めつけじゃない?いつまでこのネーミングを使い続ける気でしょう。こういった企業姿勢にはげんなりします。ありがたく利用していますが、諸事情もろもろあるのかもしれませんが、やっぱりげんなりします。
これはあくまでも一例。広告やマーケティングの世界にも、このような古い表現はまだまだ存在します。おそらく私が気づいていないところで、若い世代が違和感を覚えることも多いでしょう。情報網の発達も手伝って、世の中は急速に多様化しています。今は変容のはざまで、新しい価値観と古い価値観が混在している状況でしょうか。ただ、新しい価値観を取り入れられず順応できない企業は淘汰されていくでしょう。前述した通り、今の若い世代は「属性」ではなく「自分」単位でものごとを考える訓練を受けてきています。狭い選択肢の中でそれを当たり前と思い「自分ごと」に落とし込んで考えることに慣れていない私たちとは、価値観が違うのです。訓練を受けていない私たちが、「属性」ベースの考えから離脱するのは簡単なことではありません。ただ世代間での価値観のギャップに気づき、常に「それは決めつけではないか」と問い続けることは必要です。それはマーケティング現場においても、子育てにおいても。