Members Column メンバーズコラム
人生はじめての地域活性化チャレンジ
萩原辰夫 (NTT西日本) Vol.485
【はじめに】
2019年8月よりKNSのメンバーとなりました萩原です。よろしくお願いいたします。第65回定例会にてプレゼンをさせていただいたのですが、持ち時間をオーバーしてしまい、言いたいことの半分しか伝えきれておりませんでした。
この場を借りて、私が取り組んでいる地域活性化の取り組みについて、紹介させていただければと思います。
【地域活性化の取り組みのきっかけ】
突然ですが、皆さまは、NTT西日本と聞いてどういうイメージを持たれているでしょうか?フレッツ光、オフィス電話、公衆電話など、電話会社というイメージがあると思います。
NTTが20年前に分社化する前は、世界の株式時価総額ランキングベスト10では1989年は第1位でした。(ちなみに、2019年はアップルが1位でした。)ご存じのとおり、今の時代は高速通信に付加価値をつけてマネタイズで稼ぐ時代です。モバイルが台頭し、稼ぎの根幹であった通話料金は通話無料アプリなどにより大幅減収、通話料から通信料にシフトするも図体の大きい会社ですから、なかなか自重を支えるほど稼いでいないのが現状です。
そんな会社で業務をしている私は、現在、岡山支店にて地方自治体様向けのSE業務を行っております。主業務は、岡山県の北部のいわゆる「通信収益が出にくい地域」での公設民営型光ファイバーの維持業務です。
今から10年前、国の旗振りのもと、公設民営による光ファイバーの普及が県北でも始まりました。行政の目玉政策として、全戸に光ファイバーを整備しました。これがどれだけ凄いかと言いますと、山の頂上に家一軒あったとしても、光ファイバーを敷設したのです。企業経営の観点からすると、どうひっくり返してもやらない設備投資です。ただ、国や自治体の思いとしては、都市部との情報格差をこれ以上広げてならないという、危機感からの施策だったと思います。
現在の業務についたのが昨年4月、当時はNTT西日本の社長に小林が就いたタイミングで、小林が掲げたのが「ソーシャルICTパイオニア」地域にICTで“変化”を起こすパイオニアをめざす事でした。
県北地域ではなかなか収益も上がらないのに、ICTから変革を起こす。もし、私が現在の取り組みに従事していなければ、おそらく、「うちの社長は大丈夫か?」って事を言ったかもしれません。
そんな状況や心境の中、4か月後にはその県北自治体の一つである、岡山県真庭市の職員として出向することが決まりました。それも、単身乗り込むことになったのです。
まず、真庭市がどんなとことかと言いますと、5町4村が合併した都市で、人口46,000人、面積の約7割は森林に覆われたところです。面積は岡山県内では1番広く、山の間を流れる旭川の支流に沿って各地で栄える町がいくつもあるようなところです。有名な観光地では、蒜山高原、湯原温泉などがあります。また、真庭市が有名なのは、バイオマス発電所でしょうか、地域で経済を回すことを目指しており、自立して持続可能な都市を目指しています。その政策のひとつとして、地域で効率よい林業を営み、そこで発生した木屑を木質チップに加工し、それを燃料に発電所を稼働させています。
最近よく、持続可能な◯◯という言葉を耳にしますが、そんな最先端をいく都市です。
ただ、持続可能な地域を目指すといいながらも、全国の過疎化が進む地域と同じく、人口は減り続け、仕事はあっても働き手を確保できない状況です。
こんなところに来て果たしてICTで何か解決できるのか?ICT以前の問題では?最初はそんなことばかり考えていて、光ファイバーの設備維持の観点からすると思い切って、人口を一か所に集約する政策を提言して効率よい都市機能を目指した方がよいのではないか。など考えておりました。
今でも、人口集約の考えは妥当だと考えるのですが、ただ、現地に住んでみると、都市部とは違う時間の流れの中で、それなりに楽しく生きていけること感じました。
住まいについては、真庭市久世の中心部だったこともあり、2DK(風呂トイレ別、エアコン、セキュリティ付き、角部屋)の優良物件でした。また、近所にスーパーや100均、ホームセンターがあり、マクドナルドやコンビニも複数ありました。市役所へも近く、自転車で5分の位置だったこともあり、数か月住む分には問題ないレベルでした。
はじめのうちは、市役所の情報化の取り組みの提言など行いながら、行政目線で業務にあたっておりました。
そんなある日、真庭市に来て、取り組みの方向性(人生を含めてかもしれない)を定めることができた出会いがありました。それはスミダ商店の住田さんとの出会いです。親の代から続く八百屋を若い発想で店舗をリノベーションして、商店街に店舗を構えられている方です。
今や商店街で八百屋というのも珍しいのに、人口が少ない地域で八百屋とは、どうなのか?と純粋に疑問に思いました。はじめのうちは、通りすがりに少し目をやるだけでした。
野菜がめちゃくちゃ安い値段で売っており、自炊をしていたこともあり、機会があれば、買い物しようかなというくらいでした。
ある日、住田さんが店舗にいらっしゃったので、思いきって買い物をしてみました。話したところ、とても明るく気さくな方で、今の業務や単身赴任の苦労など話をしているとどんどん話が弾み、いつしか町の話になりました。
この住田さんですが、地域では大変有名な方で、「まにワッショイ」という地域団体の一員で、様々なイベントを立ち上げていらっしゃる方です。(まにワッショイについては、次の機会に紹介したいです。)代表的な取り組みとして、国の重要文化財に指定された旧遷喬尋常小学校で定期的に開催されるなつかしの給食イベントです。八百屋に豆腐や、鮮魚店に味噌やなどひととおりの業種の方がメンバーにいらっしゃるため、地域の食材をつかった美味しい給食が食べられます。また、配膳ボーイズを結成し、作詞は豆腐屋、作曲を八百屋が担当するという奇抜なバンドでクオリティの高い歌もリリースされております。(地域創造大賞(総務大臣賞)受賞したとか)最近は食育にも力をいれられており、子供からご年配の方まで、幅広く食に関する講義や実演をされていたりします。
そんな住田さんですが、人が少なくなった地域でなぜ店舗を出すのか、教えてくれました。
ビジネスだけで考えると、施設や店舗への食材配送に絞った方が店舗を構えるより効率的でコストもかからないのですが、それでは地域が寂れてしまうため、近所の方が少しでも外に出歩いて、人と会話する機会を持ってもらうために、コストがかかっても店を開けていているとのことでした。
それを聞いて、自分のここに来ての考えの浅さに恥じてしましました。
社会課題の解決は一辺倒の施策では、本当の意味で地域を幸せにするには繋がらなくて、人でしかできないということです。
ICT(技術)目線でなんとかしてやろうという考え自体が、そもそも手法を間違っていると思いました。社長が言うICTパイオニアとは地域で共に考え、悩みはじめてどうあるべきか考える人材だと私なりに理解しました。
「小林社長!これは数十年単位の取り組みですよ。」とここから叫んでおきます。
それからというもの、とにかく、自分の足と目で知ることを心がけるようになりました。身銭を切ってロードバイクを買い、真庭市の隅から隅まで、昼夜関係なく走ってみました。
また、地域の方と話す機会があれば、声をかけて世間話をすることもありました。
世の中では、超小型衛星やいわゆるIoTによる膨大なデータを収集し、A I(今は量子コンピューティング)で先回りの予測できる便利な未来を作ろうとしていますが、そんな時代になろうとも、自分の足と目で知ることには変わらなくて、結局、今もこれからも汗水たらさないと先端技術は活かせないということが分かりました。
【地域活性化の取り組み紹介】
話は戻りますが、会社を通じて今はいくつかのプロジェクトを起こそうとしておりまして、その一部をご紹介します。このプロジェクトはあくまでも、キッカケにしか過ぎないことなので、これで何かが解決するとは思っていません。ただ、常に何かをし続け、新たな人と繋がり、新たな発想でいろんなことに発展していれければと考えています。
地元主催の○○×地元のアートイベント
東京のオペラシティにICC(インターコミュニケーションセンター)という施設があり、そこでは、メディアアート作品を展示しています。メディアアートは、情報技術とアートを組み合わせた作品で、アート界では小規模ながら、世界3大拠点の一つが東京にあります。
この施設をNTTが運営しており、これを真庭市で活用できないか考えています。
地場企業と地元住民とコラボして作品作りができないか、各方面へ打診している最中です。
これをする意味は、地場企業のモノづくりへのプライドや地元住民の楽しみを増やすことにつながると考えています。普段の暮らしにプラスアルファして、中高生など若い子が率先して、企画実行できるようになるような仕組みを最終的に作りたいと考えています。
その時、都市部に行かなくても、地元で活動できるような環境が自然と作れたらと考えており、そのために、スミダ商店がある久世の商店街の町づくりにも一緒になって作れればと考えています。
各地のイベントをVRで残し伝える
コテコテではありますが、高性能なVR機材が安く手に入るにようになってきましたのでVR映像を残す取り組みをやり始めました。VRはよく耳にする技術ですが、まだ一般的に活用されるレベルには達しておりません。今年、試しに真庭市の祭りをいくつかを360°カメラで撮影し、VRゴーグルで祭り関係者の方に見ていただいたところ、みなさん口をそろえて「うひょーーー!」って声が漏れてきました。(真庭市長も例外なく、、、)
そして、それと同時にいろんな活用アイデアも出てきました。その一つに、神輿の担ぎ手に外国人など外部の方を呼び込むためのツールとして使うというアイデアです。アイデア自体は目新しさはありませんが、その発想を地元の方が発言することに意味があると思います。もし、実行するならば、私は120%お手伝いします。
【まとめ】
未来は楽しくイメージする方がよい。チャレンジに失敗はつきもの。やってみなくちゃわからない。やらないよりやった方がよい。そんな事を考えの中心に置きながら、ICTで社会課題の解決にこれからも取り組んでいきます。仕事半分、プライベート半分。真庭市は第二の故郷として地域超密着して頑張ります。また、KNSのみなさまと今後も深く広くつながり、いろいろアドバイスやヒント、できれば一緒に新しいこともできたらと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。
最後に、頭の中から進んでおりませんが、真庭市久世でまちづくり研究会を開催したいと考えております。その際には、ぜひ、真庭市へおいでください。