Members Column メンバーズコラム
伊勢の常識
高村康 (三重県健康福祉部ライフイノベーション課) Vol.267
皆さんこんにちは。三重県の高村です。
このコラムを準備しているときにビッグニュースが入ってきました。来年日本で開催される主要国首脳会議(サミット)の会場が三重県志摩市に決定しました。伊勢志摩サミットです。早速、県庁内にサミット推進局が設置され、1年後の開催に向けて動き始めました。この機会に伊勢志摩の魅力を世界に発信していきたいですね。
さて、ここからが本題です。
私は、生まれも育ちも三重県の伊勢市で、大学時代の6年間を名古屋で、社会人最初の2年間を東京で過ごした以外は、伊勢にどっぷり浸かっています。
伊勢で生活している私(伊勢人)にとって常識であっても他地域の人たちからは不思議に思われることがたくさんあるように思います。
みなさんは、伊勢に来られたことはあるでしょうか。修学旅行や観光、初詣でなどで伊勢に来られた方も多いと思います。
今回のコラムでは、伊勢人にとっては常識でも他地域の人たちには非常識だと思われるいくつかの項目を取り上げてみました。
1 伊勢は一年中お正月?
伊勢に来た方がよく尋ねられることは、「正月でもないのに、なぜ玄関にしめ縄(しめ飾り)が飾ってあるの?」ということです。伊勢人にとって、玄関にしめ縄を1年中飾っておくのは伊勢の常識です。写真左は我が家のしめ縄です。
ご存じのとおり、伊勢は昔から伊勢神宮を中心に街や生活が成り立っていましたから、伊勢神宮の存在を除いては語ることができません。伊勢神宮の正式の名称は「神宮」で、太陽神の天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る「内宮(ないくう)」と衣食住の守護神である豊受大御神(とようけのおおみかみ)を祀る「外宮(げくう)」を中心に、摂社(せっしゃ)、末社(まっしゃ)など併せて125の宮社で神宮が成り立っています。(地元では内宮、外宮を「ないぐう」「げぐう」と呼ばす「ないくう」「げくう」と呼びますので覚えておいてください。)
このような影響からなのか伊勢では住居の玄関に一年中しめ縄を飾っておく風習があります。年末に一年間飾っておいたしめ縄を新しいものに交換します。これ伊勢の常識です。
2 伊勢の門松は特殊?
次に正月にちなんだ話題をもうひとつ。写真右は今年の正月の我が家の門松です。少しわかりにくいですが、左右の門柱に伊勢ならではの門松を飾りました。
住居に飾る伊勢の門松は、榊と松に加えて“つぼき”と呼ばれる藁を筒状に編んで作ったものを組み合わせています。
“つぼき”という呼び名を私も最近まで知りませんでした。また、私自身このような形の門松は世間一般的だと思っていましたが、伊勢以外に住んでいる職場の仲間に聞いてみましたが、どうも伊勢地域独特のようですね。私もびっくりしました。
しめ縄と違ってこの門松は松の内を過ぎると片付けます。初詣で伊勢を訪れるとこの様子を見ることができますよ。この光景は伊勢の常識です。
3 伊勢の住居の形は?
先ほどもお話しましたが、伊勢の町は、伊勢神宮の影響を強く受けています。神宮の宮域は約5500ヘクタールで伊勢市の面積の約4分の1を占めているそうで、甲子園球場の1300倍の広さだそうです。
そんな伊勢の町歩きをすると特徴的な住居の形式を見ることができます。
最近はハウスメーカーの住居が多くなってきて少し特徴がなくなってきたようにも思えますが、伊勢の昔からの佇まいは“切妻(きりつま)式妻入(つまいり)”の住居です。
神宮の「ご正殿は唯一神明造(ゆいいつしんめいつくり)といわれ、日本古来の建築様式を伝え、ヒノキの素木(しらき)を用い、切妻(きりつま)、平入(ひらいり)の高床式の穀倉(こくそう)の形式から、宮殿形式に発展したもの」(神宮司庁のホームページから転記)だそうです。
神様の住居が平入なので、神様に遠慮して伊勢の住民は妻入の住居にしたとの説があります。ちなみに伊勢神宮の平入に対して、出雲大社や住吉大社は妻入なのですね。
切妻式妻入の街並みは伊勢神宮内宮前のおはらい町でも見ることができます。この住居の形式は伊勢の常識です。
4 腰のない麺っておいしいの?
伊勢でうどんと言えば「伊勢うどん」。太くて腰のない麺に黒いたれ、薬味はきざみ葱だけという独特のもの。今ではすっかり有名になり、ファンの方も多いようですが、伊勢うどんは苦手だという人もいるようですね。
私の子供のころは、うどんといえば「伊勢うどん」であり、よく食べました。今でも私の好物のひとつです。「伊勢うどん」という呼び名は永六輔さんが命名したとも言われています。
「伊勢うどん」のたれは、たまり醤油に鰹節や昆布等でとっただしを加えているため、真っ黒で、見た目はからそうですが、甘味が強く、軟らかい極太緬に絡めて食べます。
「伊勢うどん」は昔から伊勢地域限定の食べ物であり、お隣の松阪などでも食べられていませんでした。そういう意味では伊勢のソウルフードなのでしょうか。伊勢市内の食堂で食べることができます。お店によって、だしの取り方、麺などにも特徴があります。食べ比べてみてはいかがでしょうか。真っ黒なたれに腰のない太麺のうどん。これ伊勢の常識です。
伊勢の名物は、まだまだたくさんありますが、誌面の都合上、紹介は「伊勢うどん」のみとさせていただきます。ぜひ皆さん、伊勢を訪れて「伊勢の名物」を探してください。新しい発見があるかもしれません。
今回ご紹介させていただいた内容は、私が長年住み慣れた伊勢の地で見聞きしたものを私なりにまとめてみました。私は郷土史の専門家ではありませんので、ここに記載した内容はあくまで私見です。皆さんが伊勢を訪れるときの参考にしていただければ幸いです。