Members Column メンバーズコラム

身体の動きを客観的に評価してみると

辻和哉 (株式会社ヒューマンコンパス)  Vol.805

ランニングを指導する際、「もう少し膝を上げて」「腕を大きく振って」とアドバイスをすることがあります。しかし、そのイメージ通りに動けるようになる人と、なかなかできない人がいます。

「もう少し」「もっと大きく」と言っても、個人が思い描く感覚やイメージは人によって異なることが多いものです。様々な運動を経験している人は、多くの筋肉にあらかじめ「スイッチ」が入っているため、アドバイスに対してスムーズに動きを調整できます。一方で、運動経験が少ない人や、同じ動きしか繰り返してこなかった人は、使ったことのない筋肉にスイッチが入っていないため、新しい動きに対応することが難しくなります。

そこで、イメージを客観的な情報に変えることが、正しい動きを再現する近道になります。言葉から映像へ、抽象的な表現から具体的な数値へ、選手の動作を評価するために動作分析を行います。

この分析には、自分で開発した「ランニングフォーム分析」というアプリを使っています。これまでは映像を見ながら分析していたため、客観的なフィードバックを返すまでに時間がかかっていました。そこで自分自身でアプリを開発し、自分の知見を学習させることで、その場でフィードバックができるようになりました。

このアプリでは、カメラ撮影またはアップロードした動画から、選手の身長や性別をもとに基準値を設定し、膝の屈曲、体幹の前傾、ピッチ(歩数のリズム)、安定性、股関節の可動域、肩関節、足関節、ストライドという8つの項目を測定します。撮影は真横90度から、明るい場所で、関節がしっかり見える服装で行うことで、より精度の高い分析ができます。

アドバイスは評価だけにとどまりません。正しいフォームに近づけるためのストレッチやエクササイズも合わせて表示してくれます。ストレッチとトレーニングは合計144種目をライブラリとして用意しており、それぞれにやり方の説明と、伸ばす部位や効果のタグ(股関節の可動性、足首の安定性など)を付けています。

ストレッチは多くの人が毎回同じ内容を行っていると思いますが、実際には疲労度によって体の動きは変わります。疲労している筋肉が異なれば、必要なストレッチの内容も変わってきます。このアプリは動きのデータから疲労している筋肉を抽出し、それに応じたストレッチを144種目の中から提案します。これは怪我の予防につながるものです。さらに、このアプリには怪我を予測するシステムも組み込まれています。

このアプリは、選手一人ひとりのデータを蓄積する仕組みも備えています。選手を登録すれば、これまでの分析結果を履歴として振り返ることができ、個人の変化を追いかけるだけでなく、チーム全体で選手のフォームの変化を継続的に見ていくことができます。一回ごとの分析で終わらせず、積み重ねたデータをもとに、その選手に合った指導につなげていくことができるのが特徴です。

このアプリはパソコンでもスマートフォンでも使用することができます。普段は大学の女子駅伝部で選手を指導していますが、このアプリを使うようになってから、選手同士が互いをスマートフォンで撮影して分析し合い、お互いにアドバイスをする場面が増えました。指導者からの一方向のアドバイスだけでなく、選手同士で気づき合う文化が生まれたことは、チームビルディングにも良い影響を与えていると感じています。

また、選手から「インスタグラムに投稿できるアプリも作ってほしい」というリクエストがあり、それに応えて別のアプリも開発しました。投稿タイプ(リールなど)、テーマ(ポイント練習など)、目的(高校生のリクルートなど)、トーン(元気・親しみやすい・真剣・受験生向けなど)を選び、登場する選手の名前や入れたい内容のメモを書き込むだけで、30秒ほどでタイトル案、冒頭のフック文、キャプション本文、ハッシュタグ、撮影カットの提案までを一度に生成してくれます。さらに、炎上リスクや誤字、個人情報の写り込みをAIがチェックする機能も備えており、選手が安心して情報発信できる仕組みになっています。

このアプリの目的は、怪我の予防とパフォーマンスの向上です。正しいフォームとは、すなわち合理的でムダのない「エコなフォーム」のことであり、それによってパフォーマンスは向上します。これはランニングだけに限らず、身体を使うすべての運動に当てはまる考え方です。仕事における作業動作も同様で、動作を分析することで身体への負担を減らし、身体が巧みに動くようになることで、作業効率の向上にもつながります。

 

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