Members Column メンバーズコラム

震災を契機に中小企業は何を学んでいるのか

田中のぞみ (フリー編集・記者)  Vol.123

田中のぞみ

~関東エリアの若干の事例の紹介~

 雑誌の編集記者として、各地の中小企業やその組合からいろいろお話しを
伺うことをかれこれ20年近く生業にしています。
 その間、「中小企業」という4文字が表す世界が、実は「ミクロコスモス」
のように多種多様で、幅広さと奥行きを持っていると実感してきました。同
時に、その多様さにも関わらず、「信頼」とか「信用」を最大の財産に本業
に地道に取り組む姿はおもしろいほど共通するとも感じています。そして、
拠点としての地域が不可欠で、それがあるからこそ、つながり力やネットワーク力を
「武器」に融通無碍な変化を繰り返し、しぶとく生き続けている。
そんなしなやかでたくましい姿に「目から鱗」の思いも抱かされ続けてきています。

 KNSとも縁とつながりの深い地域に襲いかかった東日本大震災は、今もこ
れらの地域にさまざまな影響を及ぼし続けていますが、同時に、中小企業や
組合の「しなやかさ」や「たくましさ」を改めて教えられるきっかけともな
ったと受け止めています。
 岩手をはじめ東北3県について述べるのは「釈迦に説法」間違いなしのKNS
ですので、今回は、直接の目立った被害は受けなかったものの、震災をきっ
かけに「安心、安全」の問題を我が身に引き寄せ、考え始めている主に関東
エリアの中小企業組合の姿をお伝えしたいと思います。

 たとえば、群馬県の流通事業者が集まるある組合では、震災を受けて、組
合員企業に安心と安全を巡るアンケート調査を実施、そこから、「組合とい
うまとまりだからこそ何ができるのか」を探り、実現する模索を始めていま
す。また、中越地震をきっかけにBCP(事業継続計画、マニュアル)を策定
していた、千葉県のある団地組合では、「直接被害がなかったことが大きな
要因ではあるものの、BCPは機能しなかった。日頃からPDCAの活動を繰り返
し、計画文書ではなく、実際に身に付いた行動になるよう、改めてBCPとは
何か、何を働きかけていくのかを考え始めている」という声も聞きました。

 さらに、これまで培ってきた「連携」をフル活用して震災復興支援活動に
取り組むとともに、震災をきっかけに自らの「地域とともにある」という存
在意義を再認識し、そこから「地域の安心、安全を提供できる存在」になろ
うと新たな活動を展開している例もあります。
 東武東上線大山駅前に所在する「ハッピーロード大山商店街振興組合」(東
京都板橋区)は、商店街の街灯をいち早くLED化して節電省エネルギーに取
り組むなど、これまでも積極的な活動を展開している商店街です。
 地域住民の「安心安全な食」と「ふる里への思い」を満たすため、平成17
年に始めたアンテナショップ「とれたて村」の経営もその一つで、今回の震
災では、「食べて応援しよう!」キャンペーンを展開。被災地域や風評被害
を受けている地域の生産者・事業者が作る食品について正確な知識を提供
し、積極的な消費を促すなど、被災地・風評被害地支援を積極的に行ってい
ます。
 都内浄水場で放射性物質が検出された際には、「とれたて村」のネットワ
ークを活用してペットボトルの水を確保し、乳幼児のいる家庭を優先して来
街者に水を配布したほか、数万本単位の水のペットボトルを区役所にも提供。
時間をかけて作り上げてきた各地との密接な交流に基づく信頼関係の本領を
発揮しました。
 昨年11月からは「小さなできることから始める安全」をキーワードに、商
店街内では自転車は降りて手で押してもらう運動を進めています。大上段に
構えるのではなく、身近な「気づき」から積み上げていこうというわけです。

 これらはほんの一例です。大きな仕掛けもお金もかけていません。でも、
できることを足下から見つけ出し、地道にこつこつ取り組んでいく。そんな
しなやかさ、たくましさがひしひしと伝わってきませんか?

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