Members Column メンバーズコラム

地図にない情報が現場を動かす

小濱裕士 (株式会社ゼンリンデータコム)  Vol.763

はじめまして

小濱裕士(こはまひろし)と申します。
地図や位置情報の技術を活かしながら、企業やサービスのDX支援をしています。
最近は物流や製造の現場で、モノが「ちょうどよく」届くための仕組みづくりをお手伝いすることが多くなっています。

 

地図から始まった、わたしの道づくり

私のキャリアの出発点は、ナビゲーション向けの地図データ整備でした。2000年代前半、スマートフォンもなく、ケータイの画面も小さくて地図を見るには本屋さんで地図帳を買うような時代。CD−ROMやDVDナビが主流で、機種や機能ごとに地図データをカスタマイズして提供する仕事をしていました。

今ではスマートフォンで住所検索やルート探索、音声案内が当たり前ですが、当時はそれらの機能をすべて地図データに埋め込む必要がありました。その経験から、今の地図サービスの土台となる技術や考え方を学びました。その後、ご縁があって物流業界向けにルート作成や車両位置管理システムの立ち上げにも関わるようになり、現在に至ります。

 

地図だけじゃ足りない世界

地図のことなら、だいたい何でもやってきました。ナビゲーションのルート地図、スマホで見る地図、そして居住人口や年齢・年収・家族構成がわかる属性地図、人やクルマの移動傾向を示すヒートマップのような地図まで。さらに、出店戦略を考えるための地図、施設や設備を管理するような地図、訪問営業を効率化するための地図など、業種や目的に応じた多様な地図づくりにも携わってきました。
最近では、cm級精度のGPSや、屋内でもフロア単位・区画単位で人やモノの位置がわかる測位技術など、リアルタイムでの「いまここ」も可視化できるようになってきました。
それぞれに役割がありますが、どんなに地図が高度化しても、現場では“地図にない情報”が必要になることがあるのです。
物流の現場では、配送ルートや納品場所の地図があっても、車を停める場所や納品可能な時間、現場の導線、さらには運ぶ荷物の準備状況や受け入れ態勢といった情報がなければ、スムーズに届けることができません。

 

「ちょうどよく」届くということ

朝起きて、牛乳が冷えている。夜にはネットで頼んだ本が届いている。
そんな「当たり前の毎日」は、実はたくさんの人と情報がつながってできています。
たとえば、朝食のパンがいつも通りスーパーの棚に並んでいる光景の裏には、原材料の調達から製造、保管、配送、陳列に至るまで、無数の人と判断が関わっています。
作りすぎてもダメ、運びすぎてもダメという絶妙なバランスの上に、私たちの生活は成り立っています。
そのバランスを支えているのが、実は“地図にない情報”だったりします。

 

地図にない気づき

梅田の地下街では、住所はわかっていても、複雑な地下通路や駐車場所、出入口やエレベーターの位置など、現場でしかわからないことがたくさんあります。それに加え、お店ごとの受付時間や納品可能時間など、時間の制約も重なります。こうした条件をすり合わせて、訪問順を決めていく必要があります。

宅配ドライバーの方が「このお宅は夕方のほうが在宅率が高い」「この通りは朝が混む」といった経験をもとにルートを工夫しているように、現場では日々の“気づき”や“経験則”が判断を支えています。こうした情報は地図やアプリには載っていませんが、積載率や配送効率に直結する大事な要素です。

 

情報をつなぎ、整える

工場や倉庫、店舗などでは、「在庫スペースに空きがあるか」「納品物をすぐに陳列できるか」「出荷時間に間に合うよう調整できるか」など、製造や保管の工程でも多くの判断が求められます。こうした情報をいかに集め、見える化するかが、「ちょうどよく届く毎日」を支える力になります。

私は「地図にはない情報」を、できるだけ“使えるかたち”で整える仕事をしています。

具体的には、企業の中で実際に使われる業務システムやアプリケーションの設計・支援を通じて、現場の判断を助ける仕組みをつくっています。

複数の店舗への配送を計画するときには、開店時間や納品時間、道路の混雑、駐車場所など、さまざまな条件を考慮して、どこからどの順番で回ればよいかを決めなければなりません。

こうした細かい情報は、店員さんやドライバーさんが日々感じている“ちょっとした気づき”や“人の経験”に詰まっています。

私はそういった情報を、企業の中で使われる業務システムや、スマホのアプリケーションなどに反映させることで、誰もが迷わず動けるような仕組みに整えています。

地図やシステムだけでは決めきれない部分に、人の知恵や経験が残っている。そこをうまく整えて、みんなで使えるようにすることが、私の役割だと感じています。

 

人とAIが一緒に動くために

AIやロボットがどれほど高性能でも、正しく動くためには正確な地図や、現場のさまざまな情報が必要です。
「どこに停める?」「いつ届ける?」「どこを通れる?」といった判断には、地図にない情報が欠かせません。
私はAIやロボットの専門家ではありませんが、だからこそ、人が現場でしている工夫や判断をどう活かすかにこだわっています。
人とAIがうまく共存していくためには、こうした“地図にない情報”をデータとして整え、共有することが必要だと感じています。

 

知恵をつなぐ

コンビニのプリンひとつにも、実は多くの情報が関わっています。
卵や牛乳の調達から、工場での加工、冷蔵配送、納品まで、製造ラインの混雑や在庫スペース、積みやすさ・降ろしやすさといった細かい工夫が、スムーズな流れを支えています。
こうした“現場の知恵”を、関係者みんなが共有できるように整理することが、私の仕事でもあります。
その考えを日々発信するために、noteでも記事を書いています。物流や地図、現場の工夫などに興味のある方は、ぜひのぞいてみてください。
https://note.com/owlowl44

 

「地図にない情報」が教えてくれること

地図には、道が描かれています。でも現場を動かしているのは、その道に吹く風のようなちょっとした変化や、通り慣れた人だけが知っている工夫やコツかもしれません。そうした“地図にない情報”は、現場をスムーズに動かすために欠かせない“知恵”です。
こうした情報を丁寧にすくい取り、関係者みんなが使える形にすることで、現場がもっとスムーズに、やさしく動けるようにしていきたいと思っています。

 

わたしたちにできること

宅配便が来るとわかっているのに、ちょっとした都合で不在になってしまったり、建物の場所が分かっても細かい届け先がわからなかったり──そんな小さなすれ違いを防ぐために、私たちにもできることがあります。
住所に目印を添える、わかりやすい説明を書く、時間帯を気にかける。そうした小さなやさしさが、現場で働く人の負担を軽くし、みんなが気持ちよく過ごせる社会につながっていくのではないでしょうか。
日々の暮らしの中で、目立たないけれど大切な役割を担ってくれている人たちに、あらためて感謝の気持ちを伝えたいと思います。

以上

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