Members Column メンバーズコラム
水害から6年経った倉敷市真備町を訪ねて感じた「事業継続と防災のリアル」
松尾和世司 (パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社) Vol.713
初めまして、KNSメンバーズコラム初執筆となります、松尾和世司です。製造業の情シス子会社において外販事業企画・マーケティングに携わっております。どうぞよろしくお願いいたします。
私はもともとデータセンターのSEでして、その時にデータセンターの災害対策を担当していたご縁から、全国で事業継続(BC)を推進する「非営利活動法人 事業継続推進機構(BCAO)」に所属し、BCの専門家としても活動しております。
つい先日、BCAO関西地域勉強会の活動の一環として、「平成30年7月豪雨」により甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町の復興状況を視察してきました。今回のコラムでは被災から6年経った現地を訪問して感じた事を記します。
今年は宮崎県で発生した地震に基づき発表された南海トラフ臨時情報や、度重なる豪雨や台風による交通機関の混乱など、何かと災害を身近に感じる事が多い夏でした。これを機にお勤め先やご家庭の災害への備えを見直した方も多いのではないでしょうか。
関連する災害によりご親族やご友人に被害を受けた方々にお見舞いを申し上げますとともに、 一日も早い復旧を心からお祈りします。
◆被災当時と現在
「平成30年7月豪雨」は国の激甚災害にも指定され、高梁川・小田川の氾濫により一面が湖のように沈んだショッキングな映像はまだ記憶に新しいかと思います。水害や土砂災害により1府13県で200名を超える死者・行方不明者が発生する甚大な被害を及ぼし、そのうち51名が倉敷市真備町で亡くなられた方でした。
参考リンク1:内閣防災情報「平成30年7月豪雨の概要」 https://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/dai2kai/sankosiryo1.pdf
被災を契機とし、かねてより進められていた高梁川・小田川の治水事業が大きく進み、今年の3月には河川の合流地点の付け替えが完了。当時と同等の災害に耐えうる設計となったとのことです。
トップの写真は視察した施設の一つ、真備公民館川辺分室の玄関です。この地区では建物が屋根まで浸かる3.5mまで浸水したとのことで、その時のウォーターマークが記録として残されています。
参考リンク2:高梁川・小田川の合流地点付け替え工事完了 西日本豪雨受け対策(朝日新聞デジタル:2024年3月30日付)
https://www.asahi.com/articles/ASS3Y753FS3XPPZB001.html
◆被災者の声
真備町の視察にあたっては、現地の日の丸タクシー様のご協力のもと、「真備記念病院」や「讃岐うどん かわはら」様をはじめとする現地の事業者様を巡り、被災当時から現在までのお話をお聞かせいただきました。
マイクロバスで被災地を巡りながらの第一印象は、町に並ぶ家々の外観がとても綺麗だということです。被災により浸水した家屋は全て建て替えまたは内装・外装をやり直したそうで、うまく言語化できませんが、平屋が並ぶ歴史ある土地とのアンバランスを感じました。
バスを手配いただいた日の丸タクシー様も川沿いに事業所と車庫があり、営業車の大半(56台中44台)を失い、一時は廃業も考えたそうで、更に新型コロナウイルスによる観光業への打撃もあり、大変苦労をされたとのことです。
お話をお聞かせいただいた事業者の皆さまからの話を全て書き出したいところなのですが、特に印象に残った「讃岐うどん かわはら」様のお話をご紹介します。
かわはら様は1993年に真備町で開業され、26年間営業をされた後に平成30年7月豪雨により被災しました。
被災前日は雨が降り続いていたもののまさか河川が決壊するとは夢にも思わなかったそうで、通常通り営業をし帰宅。雨足が強まりスマホの警報や防災無線が鳴り響く中、防災無線から聞こえる倉敷市市長の声が段々切羽詰まったものになり、最後は泣き叫ぶように「逃げてください!」という声に代わったところで「ただごとではない」と感じたそうです。
高台にある知り合いの会社に避難し、泥水に沈む町を見て呆然とし、一時は廃業も考えられたそうですが、避難生活を続ける中で、長年店を支えてくれた真備町の人々に恩返しをしなければと感じ、被災から3ヶ月後にいち早く営業を再開されました。
開業することで避難していた地元の方々の拠り所ができ、仮設住宅に散り散りとなった住民の方々は涙を流して数ヶ月ぶりの再開を喜んだそうです。その時やっと地域に恩返しができた気がする、と涙ながらに語った姿が心に残っています。
讃岐うどん かわはらさんのWebページはこちらです。ぜひ一度お立ち寄りください。
◆事業継続と防災と
2日間の視察を通じ、医療、飲食、金融、観光など色々な業種の方が6年間いかにして事業と生活を復旧してきたかを教えていただく一方、新しい町並みにポツポツと、基盤だけ残した更地がいくつも見つかります。真備町では被災前の人口の1割が戻ってきていないそうです。それぞれの事情は様々と思いますが、地方都市において事業と生活は切っても切れない中、事業継続と防災はどうあるべきかを考えさせられました。
私の気づきの1つは改めての「ハザードマップの重要性」です。
真備町の浸水した地域は、河川付け替え工事を行う前のハザードマップにおける浸水予想域とピタリと重なります。平成27年の水防法改正に基づき、ハザードマップも順次改定されています。みなさんのお住まいの地域と勤める会社のある地域のハザードマップをいま一度確認いただき、事前の被害の想定や備えを怠らないようにするのが大事です。
もう1つの気づきは「水害が予見される場合は早めの避難が重要」と言うことです。
当時の水害においても、家屋が2階まで浸水し何時間も水に浸かりながら救助を待ち、死の恐怖にさらされた経験がフラッシュバックするPTSD(心的外傷後ストレス障害)を負った方も居られると聴きました。また、子どもに同じ様な恐怖を味わわせた事をずっと悔やんでいる親御さんもいらっしゃると聴きます。例え命が助かってもPTSDは長く被災者の心を蝕むため、万が一にもそういった経験をしないよう、早めの避難が重要です。ご家族が居られる方は、日頃から有事の際の連絡手段と避難場所の優先度を決めておきましょう。
以上です。
今回は防災の話が中心でしたが、事業継続や災害対策に関する意見交換も承りますので、定例会で見かけた際は気軽にお声がけください。
特定非営利活動法人 事業継続推進機構(BCAO)
https://www.bcao.org/