Members Column メンバーズコラム

還暦を迎え、この3月末で奈良県庁を退職しました

竹田博康  Vol.746

 奈良県庁には37年間お世話になりました。最後の15年は奈良公園を中心に観光にどっぷり浸かり、観光局長を最後にこの3月末をもって退職しました。
 早いもので退職して一か月が経ちました。毎日が休みという経験は何とも新鮮ですが、だんだんと何かしら動いていきたいと思う今日この頃です。
 今回、こちらのコラムのお話を頂戴したことで、奈良県庁での公務員人生を振り返る機会となったこと大変ありがたく思っています。
 私は1988年に奈良県に土木職として入庁、この年は奈良県で『なら・シルクロード博覧会』が開催された昭和最後の年、観光分野に腰を据えるきっかけとなったのが2010年の『平城遷都1300年祭』、退職する今年が昭和100年で55年ぶりの大阪での万国博覧会が開催される節目の年と、博覧会とは何かとご縁がある気がします。
 それでは、最初に、自分の略歴とその当時の出来事など自分史とその時々から来る気づきを紹介した後、今後についても少し触れたいと思います。

【最初の10年は現場中心の基礎を学ぶ期間】
 最初の配属先は吉野土木事務所。赴任した時は吉野の桜が満開で自然豊かな環境の中で伸び伸びと仕事ができる長閑な職場環境だなあという印象でした。
 自然は雄大ではあるもののひとたび雨が降り出すと自然は大きなうねりのように襲ってくるもので、1990年9月の台風による大水害では吉野川流域で90件を超える災害が発生。当時は毎日現場へ出向き、現場を測り、対処法を考える日々。机でできることはなく現場が全てと感じ「答えは現場にある。現場百回。初心に帰る。」が最初の教訓でした。
 1995~1997年は天川村でのへき地勤務。職場の2階が住まいという飯場生活を経験。天川村民の悲願で最後の村への難所・新川合トンネルなど担当して「地域の人と向き合って現場が出来上がる。チームワークが一番、支えあっての現場。」が重要と感じました。

【30代は自分の力を蓄えつつ試す期間】
 30代は、これまでの自分の学びを実行に移して試したいという気持ちが芽生え始めた頃で、奈良県においても河川計画、都市計画、学校再編計画を考える節目の時期とも重なり、いろんなことにチャレンジした期間であったと思います。
 特に、教育委員会での学校再編では学校現場の先生方との激論を繰り返し、耐震化計画では防災の専門家との議論を進めるなど自分のこれまでの土木職として領域を超えるとても斬新な経験ができた有意義な時間で、「自分の守備範囲を決めず、自然体で仕事をすることを学び、堂々といろんなことに向き合うこと」、チャレンジングしていくことが楽しいと思うようになった頃でありました。

【40代はリーダーとしての舵取りを学ぶ期間】
 2010年には平城遷都1300年祭が開催されました。その際、来場者が気持ちよく会場まで来ることができるようにマイカーの流入抑制施策として、パーク&バスライドを大社会実験と銘打って実施しました。当時は道路建設課で渋滞対策の一環として、1300年祭の年を含め3年計画でいろんな関係者の方と調整して計画を練り上げていく中で、「決してベストな答えにはならないが、最適解はどこにあるのかを考え続けた」のが印象的で、リーダーとしての自覚ができてきた頃だと思います。
 1300年祭の翌年、祭りの賑わいを継続するため、奈良公園を観光の最前線とするべく新設された奈良公園室に着任しました。行政では珍しく縦割りではなく横串の仕事で、斬新かつ楽しい時間のはじまりとなりました。
 まずは『奈良公園基本戦略』という奈良公園の羅針盤づくりに乗り出しました。奈良公園のフィールド整備側、管理側、観光客など利用者側、さらには誘客事業者側などの多様な視点で考える大切さを学び、『奈良公園観光地域活性化総合特区』の指定も受けるなど守備範囲が広くなるに連れ自分のネットワークも広がることをとても楽しんでいました。

【50代はリーダーとして牽引していく期間】
 50代でまず手掛けたことは泊まる場所、ゆっくり佇む場所が少ないので、これらをつくるプロジェクト。知事公舎や少年刑務所を含め奈良公園周辺の未利用地を活用して、質の高いホテルや奈良公園バスターミナルなどを計画し、奈良公園の環境をより良く改善するべくリーダーとして攻めに徹してプロジェクトを牽引できた刺激的で楽しいラスト10年となりました。奈良公園の賑わいに少しは貢献できたのではと思っていて、「攻めは最大の防御」が座右の銘となり、前へ前へと出すぎるくらいで丁度良いとの思いでゴールまで走り切った気がしています。

【第二ステージでの仕事など】
 さて、これから始まる第二ステージではどんなことが待ち受けているのでしょうか。還暦を迎えた今年、奈良県は退職しましたが今後も奈良の観光には携わっていく予定です。
 奈良の観光には、①奈良のポテンシャルは高いものの、お金を使う観光地にはなっていない〈安い〉、②奈良の奥深い魅力を知ってもらっていない〈浅い〉、③大仏さまと奈良のシカなど狭いエリアで満足させてしまっている〈狭い〉、という3つの課題があります。このため、①訪れたくなるように地域の魅力を磨き上げ、②快適に過ごせる人材育成を含めた受入環境を整備し、③データに基づいた戦略的な観光政策を実施し、④明確なターゲットに向けた訴求力の向上に取り組むことが重要だと思っています。「地域の人が光を観ることができてこそ、訪れる人が光を観ることができる」という考えのもと、観光まちづくりに尽力したいと考えています。

 これまで同様、皆さまとのつながりを大切にしてまいりたいと思っていますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

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