Members Column メンバーズコラム

 四足歩行ロボットは農業イノベーションの起爆剤となるか?

佐藤 暢 (高知工科大学)  Vol.760

みなさん、こんにちは。KNS四国支部(高知)の佐藤です。領家さんからのお誘いを受け、久しぶりにコラムを担当することとなり、ここ数年担当している産学官連携プロジェクトの一端をご紹介させていただきたく思います。

 

四足歩行ロボットとは?

 四足歩行ロボットとは、その名のとおり四本の脚で移動するロボットのことです。インターネットで少し調べただけでも様々なものが出てきます。犬や猫、あるいは馬やヤギのように見えるものもあります。四本の脚でバランスを取りやすく、ぬかるみやガタガタした道など、タイヤや二足歩行ロボットでは動きにくい場所でもスムーズに移動できます。

 一般的な特徴としては次のようなことが挙げられます。

・高い移動能力:四本の脚で、不整地や階段など、二足歩行ロボットや車輪型ロボットでは移動が難しい場所でも安定して移動できます。

・生物模倣(バイオミメティクス):動物の動きを参考に開発されており、柔軟で自然な動きが可能です。

・幅広い用途:測量、点検、警備、災害救助など、様々な分野での活用が期待されています。

・自律性:センサーやAIを搭載し、自律的に障害物を回避したり、ルートを計画したりすることができます。

 

 このように様々な分野での活用が期待される四足歩行ロボットですが、これを農業の現場に適用するための研究が「IoPプロジェクト」のなかで進められています。

 

「IoPプロジェクト」とは?

 高知県の農業を飛躍的に発展させることを目指して2018年からスタートした、高知県を中心とする産学官連携プロジェクトです。ここで「IoP(アイ・オー・ピー)」とは、「Internet of Plants(インターネット・オブ・プランツ)」の略語で、直訳すると「植物のインターネット」となります。農業現場の環境情報(温度・湿度・日射・風向風速・土壌など)のみならず、植物の生理・生育情報をデジタル化し、インターネット上のクラウドシステムに集約化させ、栽培生産管理の最適化や、出荷時期・出荷予測を実現することで、農業の「超高収量・高品質化」「超省力化・省エネルギー化」「高付加価値化」を促進することが狙いです。そしてこれらの取組みにより、若者が夢や希望を叶えることができる持続可能な産業としての発展を図ります。また、農業分野における「Society 5.0」の実現を目指しています。

 https://kochi-iop.jp/

 

 高知工科大学もIoPプロジェクトに参加しており、この一環として、四足歩行ロボットを活用した農業の省力化や自動化に向けた研究開発に取り組んでいます。公開型の実証実験(デモンストレーション)も行ってきました。それらを以下にご紹介しましょう。

 

【事例①】樹木の葉や果実の数を推定するためのデータ収集を、四足歩行ロボットを使って自動化・省力化(2023年10月)

https://www.kochi-tech.ac.jp/news/2023/006196.html

 高知県は、ゆずの国内生産量のうち約53%、収穫量約1万1,000トン(2019年農林水産省調べ)と日本一を誇っています。近年、ゆず等の果実の産出額は、優良品種への転換により年々増加傾向にある一方で、生産者の高齢化や栽培農家数の減少により、栽培面積や生産量は緩やかな減少傾向に向かっています。

 また、ゆず等の柑橘類の果樹は栽培上、「隔年結果」と呼ばれる豊作・不作の繰り返しを生じやすく、毎年の安定生産が農家にとって課題となっています。それを避けるため、葉果比(=葉数/果実数)を計測し、適切な葉果比になるように摘果することが重要です。

 そこで、これまで人力で行っていた葉数推定のデータ収集を自動化・省力化するため、「果樹栽培技術革新のための1樹葉果比推定技術」を四足歩行ロボットに搭載させ、①ロボットの自律走行実験、②人を追跡しながらの走行実験、の2つの実証実験を行いました。

 

【事例②】収穫したユズを四足歩行ロボットが搬送トラックまで運搬(2024年11月)

https://www.kochi-tech.ac.jp/news/2024/006566.html

 四足歩行ロボットによる収穫支援実験を行いました。ゆず収穫の作業場から積込トラックまで、人の音声指示を受けながら自動走行で運搬作業をおこなうものです

 具体的には、まず準備作業として四足歩行ロボットに園地の地図を持たせておきます。そして収穫作業です。「ついてきて」の音声指示を受け、ロボットは作業者を追随し、収穫場所まで移動します。収穫作業者はロボットの背中に搭載したカゴに入れ込み、「トラック」の音声指示で、ロボットはトラックまで自動で走行します。トラックに到着すると別の作業者がロボットのカゴからゆずを受け取り、「もどって」の音声指示で、ロボットは再び収穫場所まで自動で走行します。このように、音声指示を受けたロボットが、ゆずの収穫場所と積込場所を自律的に往復します。作業者が重いコンテナを運搬する必要がないため、作業時間・作業者数の削減につながることが期待されます。

 

【事例③】間引きにより不要となったユズを四足歩行ロボットにより廃棄場所まで運搬(2025年7月)

https://www.kochi-tech.ac.jp/news/2025/006782.html

 前述のとおり、果樹栽培では豊作と不作が交互に繰り返される「隔年結果」とよばれる現象がおこります。果実がたくさん実った年は、翌年の花芽へまわる養分が減ってしまうことに起因するのだそうで、毎年の生産量を均一化し、安定的な生産を継続するには、適切な葉果比(果樹の葉の数に対する果実の数)に沿って、多くなりすぎた果実を間引く(=摘果する)必要があります。しかし生産人口の減少や高齢化から、摘果もほとんど行われていないのが現状で、作業者数削減と労力軽減への取り組みが期待されています。そこで今回は、「摘果までは人が行い、廃棄場所までの運搬・廃棄を四足歩行ロボットが担う」という実験を行いました。

 

 それぞれの詳細は、ぜひ大学ウェブサイトをご覧いただければ幸いです。そして、これらの取組を、つい先日の「やまがたフルーツEXPO」でもご披露させていただきました(8/9-10)。今年(2025年)は、さくらんぼや西洋なしなどの果樹の苗木が明治政府から配付され、山形県庁の敷地に植えられてから150周年の記念すべき節目の年を迎えるのだそうです。すなわち「やまがたフルーツ150周年」。詳細はウェブサイトをご参照ください。

 https://ymgt-f150.com/expo/

 

 今回ご紹介した四足歩行ロボットの農業応用に向けた研究は、栗原徹・高知工科大学情報学群教授および浜田和俊・高知大学農林海洋科学部准教授をはじめとする研究チームによる取り組みです。このたびのコラム執筆に当たりご理解とご協力を賜りましたこと、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。

 ちなみに栗原教授によれば、次は鳥獣対策に資する機能の搭載を目指しているとのことです。すでにいろいろな方から要望を聞いているとか。また、その他にも様々な機能を追加することで、1年間を通して1台のロボットを利用できるようにしたいとのことです。今後の研究開発の進展に、ぜひご注目ください。

 

 ということで、今回は四足歩行ロボットを活用した農業イノベーションの取組みを紹介させていただきましたが、IoPプロジェクトの一環として、高知工科大学では次のような取組みも進めてまいりました。ご興味ありましたら、ぜひご一報ください。

・森林バイオマス資源を活用した脱化石燃料型の施設園芸農業モデル

・データの有効な利活用のための安全・安心な情報通信ネットワーク

・センサーに負荷をかけずにデータの安全を保障する情報セキュリティ認証

・農作物の成長量を適切に把握するためのハウス内の光環境計測

・農作物の生育予測における深層学習の応用

・画像解析による果実の自動検出と収量予測への展開

・収穫ロボット開発のための画像認識と駆動制御

・農作業の省力化を実現する作業支援ロボットの開発

 

※本研究は、内閣府地方大学・地域産業創生交付金「IoP(Internet of Plants)が導く、「Society 5.0型農業」への進化」の助成を受けたものです。

PAGE TOP