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万博イタリアパビリオン出展奮闘記 ~中止決定からの大逆転劇~

佐々木 健一 (関西医科大学)  Vol.770

 本学(関西医科大学)は、イタリアのトリノ工科大学やローマ大学、ミラノ大学などと協定を結んでいます。その関係で、2023年春頃から、2025年の大阪・関西万博イタリアパビリオンで本学の研究テーマを展示する計画が持ち上がりました。展示テーマの候補もほぼ決まっていましたが、話が具体化しないまま、2025年1月頃に中止の連絡が入りました。個人的には、これで万博に行かずに済むと安堵していたのが正直な気持ちです。

 万博が開幕しても計画は中止のままでした。ところが、開幕後のある日、事態は急転します。当初の予定より1週間後ろ倒しの8月18日から21日の日程で、やはり展示をしてほしいという打診が突然あったのです。この時点で、本番まで残り4か月しかありませんでした。

 もともと2つのテーマを準備していましたが、イタリア側と協議し、展示物の制作期間が非常に短いことから、1テーマに絞らざるを得ませんでした。形態としては、パビリオン内の一室を借りての展示です。しかし、パビリオン内部の様子、割り当てられるスペースの広さ、デモンストレーションの具体的な方法や担当者、使用言語(英語か日本語か)、機材の搬入方法など、何もかもが未定で、不安を通り越して恐怖を感じながらのスタートとなりました。

 展示テーマは「VR技術を用いて個人のバランス年齢を測定し、最適な運動を推奨することで健康寿命を延ばす」というリハビリテーション医学に関するものです。通常の学会展示なら経験も豊富で先の見通しも立ちますが、万博、それも海外パビリオンでの展示は全くイメージができませんでした。

 「得体の知れない魔物(当時の私にとっての万博)と、どう戦うか」。まずは敵を知ることからだと、私はすぐさま通期パスを購入しました。ここから、私のイタリアパビリオン出展に向けた奮闘が始まったのです。

 最初の数回は、万博の雰囲気を掴むため、というよりは他パビリオンの展示手法を研究するために足を運びました。来場者を椅子に座らせて5分程度の映像を見せる交代制(これでは映像制作に時間も費用もかかりすぎる)、スタッフが数人ずつ集めて説明する対話形式(4日間では多くのスタッフが必要だ)、展示物を置いて自由に見てもらう放置形式(これが一番楽だろうか)など、さまざまな方法がありましたが、映像を中心とした展示が多いのが印象的でした。

 しかし、視察を始めた5月の時点で、イタリアパビリオンは90分待ちという人気ぶり。行列に慣れていない私には苦痛で、この時は中に入るのを諦めました。

 最初の訪問では、イタリア館の事務総長にお願いし、列に並ばずに入れていただくことにしました(最初からこうすれば良かったのですが)。当日は総長の部下の方が対応できないとのことで、案内スタッフとして来日していた、とても美しい若い女性が英語で館内を案内してくれました。一緒に写真撮影をお願いしたのですが、丁寧にお断りされてしまいました(苦笑)。この時はスタッフ用の入口から入れてもらい、初めて見る巨大なアトラス像に感激しました。そして、私たちの展示会場となる予定の一番奥のカンファレンスルームも見せてもらいました。そこは催しがある時だけ使われる部屋のようで、当日は誰もいませんでした。

 2回目の訪問は、なんと個人的に応募した優先入場券の抽選に当たり、正面から堂々と入館。この時は1時間以上かけてじっくり見学し、以前女性スタッフが英語で説明してくれた内容への理解が深まりました。

 この頃から、カンファレンスルームの施工を担当してくれるデザイン会社も見つかり、毎週のようにWeb会議を重ねました。そして3回目の訪問は、そのデザイン会社の方々との現場下見です。夕方にスタッフ入口から入りましたが、担当者がイタリアに帰国中だったり、会場が別の催しで使われていたりと、予定通りにはいきません。催しが終わるのを待ってようやく会場に入り、デモンストレーションのリハーサルを試したところ、すぐ横のガラスが体験者にとって危険だと判明。即座に、一般客の体験は中止し、スタッフによるデモのみを行う方針に切り替えました。

 いよいよ展示当日。前日は会場で別の催しがあったため、デザイン会社は夜22時から搬入を開始し、徹夜で施工を完了してくれました。私たち大学のメンバーは初日の朝、始発電車で夢洲駅に集合し、AD証で会場入り。早朝の万博会場には誰もいません。「みゃくみゃく」も「大屋根リング」も、そしてイタリア館の「アトラス」も独り占めでした。

 9時の開門に向けて準備とリハーサルを済ませ、お客様をお迎えしました。展示期間の4日間は、毎日スタッフ食堂に通いました。日替わりで様々な国のメニューが楽しめるのは素晴らしい体験でしたが、値段は高めでした。そして最終日には、屋上のイタリアンレストランを予約してみんなで打ち上げ。設営準備から含めた7日間にわたる私たちの挑戦は、こうして幕を閉じました。

 多くのハラハラ、ドキドキがありましたが、さまざまな人との出会いや貴重な体験に恵まれ、私にとって大きな人生の思い出となりました。すっかり万博の魅力にハマってしまい、結局、会期中に25回も足を運び、リング内のパビリオンはほぼ全て制覇しました。本当によく歩き、よく並んだ万博でした。

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