Members Column メンバーズコラム

ミニ井戸端会議での意見交換

大澤勝文 (釧路公立大学)  Vol.120

大澤勝文

 釧路公立大学の大澤勝文です。大学では地理学・地誌学などの講義を担当
しています。研究面では、かれこれ20年ほど前の学生時代から、新潟県燕
・三条地域、東京都大田区、東大阪市における中小工業の実態把握を積み重
ねてきました。東大阪では2000年頃から調査を始め、KNSには設立当初の03
年からメンバーに加えていただいています。北海道在住ゆえ定例会にはなか
なか参加できないのですが、04年~06年にかけ、4回にわたって「KNSミニ
井戸端会議」で話題提供をさせていただきました。その経験はたいへん貴重
なもので、私が折にふれて研究・教育活動を考える際の原点ともなっています。

 ご存じの通り、ミニ井戸端会議はメンバーをスピーカーとした小規模な会
合で、参加人数は概ね10人前後といったところでしょうか。小会議室でテ
ーブルを囲み、少人数ならではの自由闊達な意見交換が行われています。私
がスピーカーとなった4回では、いずれも会合時間は3時間をこえ、延長戦
の居酒屋ではさらに白熱した議論が行われていました。KNSホームページで
現在のミニ井戸端会議の様子を拝見しても、こうしたスタイルは変わって
いないようですね。私の印象では、ミニ井戸端会議は、定例会、各研究会で
の「報告」「発表」とは趣を異にし、とりあえずのテーマ設定でも可としな
がら意見交換を積極的にすすめるところに主眼を置いているように思います。
 私がスピーカーとなったミニ井戸端会議で、特に印象に残っているのは
Vol.12(05年4月22日)「流通機能からみた東大阪産業集積の革新性」です。
当日は、事業経営、調査機関、行政関係、金融機関など多様な分野からメン
バーのご出席をいただきました。当時、東大阪のモノづくりは「きんぼし
(トップシェア)企業」「まいど1号」など全国的な注目を集めていました
が、Vol.12では自身の調査を踏まえ「全国的な注目の背景には、マーケティ
ング、流通機能が他集積に比べて長けている面があるのではないか」との見
方を示しました。「モノづくりにとってのマーケティングの重要性」について
は出席者間で一定の共通理解が得られているように感じましたが、この点に
かんする東大阪の評価については、出席された皆さんの事業経営の方向性、
各機関での立場から意見が大きく分かれたのが印象的でした。こうした当初
必ずしも想定していなかった方向への展開は、ミニ井戸端会議の魅力のひと
つです。さらに、Vol.12では出席者の方から「大阪市をはさんで淀川、大和
川があり、都市経済がそこで途切れている。川の分断によって地域的な特徴
が異なるのではないか」との発言がありました。この点は、地理学を専攻す
る私にとって大きな関心事ですが、驚いたのは出席されたメンバーの皆さん
がこの発言にたいへん強い興味を示されたことでした。この発言を受けて意
見交換を試行してみたのがVol.29(06年10月5日)のミニ井戸端会議「『大阪
の特徴が淀川と大和川を境として異なる』ことについて―05.4.22.KNSミニ
井戸端会議vol.12の議論から―」になります。
 実態調査をベースにした研究を続けていますと、「変化が激しい」中にあ
って現実の実態を捉える難しさを痛感します。東大阪を調べていた当時はそ
うした状況でも、ミニ井戸端会議での意見交換を踏まえることで、手応えを
感じながら調査を進めることができていたように思います。「産学官連携」
への関心の高まりとともに、現場の皆さんの前で一定の研究「結果」を報告
する場は多くなってきていますが、研究「過程」において現場の皆さんと意
見交換ができるミニ井戸端会議のような場は、今もって案外少ないのではな
いでしょうか。現場の皆さんとの意見交換を通じ、お互いの実態把握の内容
を豊かにしていくのも、「学」の重要な役割ではないかと考えています。

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