Members Column メンバーズコラム
鹿児島と私のエピソード
中武 貞文 (鹿児島大学南九州・南西諸島域イノベーションセンター) Vol.777
「鹿児島」と聞いて皆さんは、何を想像しますか?桜島?黒豚?焼酎?
私は鹿児島に暮らし始めて18年になろうとしています。その前は、福岡に約12年、大阪に6年住んでいました。KNSの皆さんの多くは、大阪を中心とした関西にお住まいと思います。日常で鹿児島に接する機会は限定されるだろうという前提で、今回は鹿児島について紹介して参ります。(字数が残れば、私の仕事「産学官連携」についても)
「自然と景色〜桜島」
私の自宅は、桜島フェリーターミナルにほど近いところにあります。桜島フェリーは、鹿児島市内と錦江湾を隔てた桜島の交通の要で、ほぼ24時間運行をしています。私はふらりと散歩するのが趣味なのですが、コースの選択肢のひとつが桜島です。片道15分の船旅気分を味わうことができます。おすすめは、桜島側に渡った到着ターミナルから徒歩10分のところにある溶岩なぎさ遊歩道です。荒々しい溶岩原と海との間の縫うように遊歩道が整備されています。ここから鹿児島市街地を臨む「非日常」が私にとって癒やしの時間です。
「言葉」
鹿児島のことを語る際に忘れられないエピソードが我が家にあります。それは言葉/方言です。私は同じ九州の鹿児島出身、妻は福岡出身なのですが、今でこそある程度は聞き取ることができるのですが、住み始めた頃は全くわかりませんでした。引っ越して間もない頃、宅配便の荷物が届きました。配達人は一生懸命に説明しようするのですが、何を言っているかわかりません。結局、妻は押し売りセールスが来たと判断し、「わかりません!!」とインターホンを切ったそうです。後に「宅配便」とわかり配達員には平謝り、夫婦で大笑いしました。「江戸時代、隠密が薩摩に入ることができなかった理由は鹿児島弁だ」というミステリーかつロマンある言説もあるようです。我が家では、宅配便が届かないという実害/実体験があっただけに、隠密が苦労した姿を想像してしまいます。
「幕末の香り」
江戸の隠密が見たかどうかわかりませんが、鹿児島には多くの幕末が、残っています。その中でも私が好きな場所を紹介します。自宅から職場(鹿児島大学南九州・南西諸島域イノベーションセンター)への通勤経路である国道3号線の横にそびえる石垣に「西南戦争の銃弾跡」があります。西郷隆盛が明治政府から下野した後、鹿児島の士族たちのために創設した私学校を石垣は囲っています。この近辺一帯に弾丸が飛び交った西南戦争の記憶をこの石塀は記憶していると言えるかもしれません。私学校の隣には、鶴丸城という島津家の居城もあり、そこにも石垣がありますが、実は鶴丸城の石垣にも弾丸跡があります。これら弾丸跡を眺めながら、政治、経済、社会が変化していった激動の時代や引き金を引いた者達を想像してしまいます。加えて、島津の殿様に向けて銃を撃った者は誰だろう?とも。
「食、ではなく醤油」
牛肉、豚肉、鶏肉、ぶり、カンパチ、お茶と食に関するアイテムが多い鹿児島ですが、ここでは趣向を変えて「醤油」を紹介しましょう。「九州の醤油は甘い、鹿児島はさらに甘い」と宮崎生まれ、大阪、福岡に住んだ者としては断言できます。もう10年ほど前になりますが、「だから『醤油』もってこいって言ってんだろう。こんちくしょうめ(江戸弁)」と鹿児島中央駅近くの居酒屋で叫んでいた男性を目撃したことがあります。この方、鹿児島の甘い醤油を『醤油』とすら認識しなかったのでしょう。それくらい別物なのです。なぜ甘くなったのかは、さて置き、KNSの皆さまが鹿児島に来る機会があれば、この甘い醤油と鹿児島の食材のマリアージュを試みて欲しいです。おすすめは、南九州でしか食すことができない「鶏刺し/鳥のたたき」です。生の鶏肉に驚かれる方も多いのですが、厳格に生産と流通の管理が行われています。鶏刺しに甘い醤油をつけ、お湯割りを頂くまでを堪能してはいかがでしょう。そうそう、居酒屋で叫んでいた御仁は、店員からの説明でようやく『醤油』と認識し、「へえ〜」と驚いていました。鹿児島の新たなファンが誕生した瞬間を、私は目撃したのかもしれません。
「焼酎」
お湯割りという語を記し、そこで焼酎を忘れていたことに気づきました。併せて今の職場 ー 鹿児島大学 ー に着任してまだ日が浅い頃に参加した懇親会を思いだしました。懇親会で私が、何気なくビールを頼んだことに対して重鎮の先生が「ナカタケくん、それは違う。ここ(鹿児島)では、これ(焼酎のお湯割り)が常識ですよ」と厳しい表情で私にお湯割りグラスを渡したのです。ここは「焼酎文化圏の本丸」なのだと認識を改にしたシーンでした。ちなみにその研究会は「鹿児島焼酎研究会(現:鹿児島大学農学部附属焼酎発酵学教育研究センター)」が主催するもので、焼酎造りや文化に関する真面目な研究会でした。そんな場で「取りあえずビール!」と頼んでいたらダメですよね。
と、大阪、関西圏とは異なる独自の自然、言葉、幕末、食(醤油)、焼酎を有する鹿児島です。KNSの皆さま、鹿児島にお越しの際には、是非、お声かけください。私は、中武貞文、鹿児島大学で産学連携業務を担当する准教授です。この場をお借りして、是非、皆さまと交流し、社会に価値を提案していきたいと考えています。今後ともよろしくお願いいたします。連絡は以下のメールアドレスまで!
中武貞文 南九州・南西諸島域イノベーションセンター nakatake(アットマーク)km.kagoshima-u.ac.jp
