Members Column メンバーズコラム
2年間暮らしたウランバートルを後にするにあたって
増田たくみ (JICAシニア海外ボランティア) Vol.430
みなさん、サインバエノー(モンゴル語でこんにちは!)私は2016年10月から2年間、JICAのシニア海外ボランティアよりモンゴル、ウランバートルのモンゴル国商工会議所(以下、MNCCI)に派遣されていましたが、いよいよ明日無事帰国することとなり、このような記念すべき日に寄稿させていただけることをとても嬉しく思っています。
今回私がJICAシニア海外ボランティアに応募したのも、私の周りのみなさんのお陰で十数年、創業、中小企業支援のお仕事に携わらせていただいてきたのですが、海外で同様の仕事をしてみたいと思ったことがきっかけでした。
青年海外協力隊については名前を聞かれた方も多いと思います。私も青年海外協力隊に参加するつもりで説明会に行ったところ、「40歳以上の方はシニア海外ボランティアになります!」と言われ、そこで初めてシニア海外ボランティアの存在を知りました。シニア海外ボランティアは基本的に要請内容と要請国が紐付いていますので、要請内容に合った国に応募することになります。(応募に興味がある方はこちらをご覧ください。https://www.jica.go.jp/volunteer/)私が応募した際は私が応募できる要請内容で要請していたのはモンゴルだけでしたので、合格したらモンゴルに行くんだな…と思いながら応募しました。その時点ではモンゴルについての知識は全くなく、合格してから自分でも調べたり、いろんな方から情報をいただいたり、最後は福島県二本松市の訓練所で1ヶ月モンゴル語を教わりながら、モンゴル人の先生に色々モンゴルのことについて聞く中で、徐々にモンゴルのことがわかってきました。
ウランバートルは中国とロシアの2大国に挟まれた海のないモンゴルの首都で標高約1,300m、人口約146万2,973人1)、最低気温が-35℃から-40℃になることもある世界で一番寒い首都です。日本のみなさんの中にはモンゴル人全員が遊牧民でゲル2)に住んでいると思っておられる方が、おられるかもしれませんが、ウランバートルのほとんどの人は冬、パールという温水暖房でビル全体がセントラルヒーティングになるマンションに住み、オフィスで働いています。ただ、市内北側にゲル地区が広がり、そこに住んでいる人たちはゲルまたは一軒家に住んでいます。ただその地域は、水道も温水暖房設備も引かれていないため、水は汲みにいかなければならないし、冬は石炭や薪を燃やして暖をとらなければなりません。それらから出る排気ガスが大気汚染の原因となり、冬はその地域からウランバートル一帯に大気汚染が広がり、場所によっては中国、北京よりひどい汚染に未だ悩まされているようです。
仕事の話に戻りますが、私が派遣されていたMNCCIは3,000数社を会員に持ち、1960年に設立されたモンゴルでは歴史のあるNGO組織です。2016年6月にモンゴルと日本が経済連携協定を発効し、それに伴い商工会議所としても日本との貿易の活性化を促進する必要性が高まったこともあり、日蒙のビジネスを活性化させるための取り組み、そしてスタッフと協働することによる、技術移転を目標に活動していました。日蒙のビジネス活性化においては、2年間で様々な業種、規模の企業をサポートさせていただきましたが、日本とモンゴルのビジネスをつなげる難しさは(1)国民性の違い、(2)物流コストの高さ、(3)人件費の高さにあると感じました。
(1)については、先日、長い間在モンゴル日本大使館で大使を務められた清水前大使のお話を伺う機会があり、その中で、モンゴル人と日本人は顔は似ているが、対局の民族であるということをおっしゃっておられました。モンゴル人は世界制覇を成し遂げた民族の末裔でプライドが高く、貴族気質、組織活動が苦手、個人、家族、親族が最優先、実力よりコネを信じる、考えないで走り出す、不可能はない、自己主張がうまく、大陸の遊牧民族である。一方日本人は考えて、考えて動き出さない、ノーと言えない、自己主張が苦手、外国人との接触に慣れていない、チームプレーを尊ぶ国民性、周りを気にする島国の農耕民族であると。そして、私もこの2年間で強くそれを感じたのですが、相手の弱点をお互い補完できる可能性はあるのですが、やはりお互いに相手を知ろうとしなければ、ビジネスにおいても成功はなく、それを乗り越えようとする情熱を持った人、企業にのみ成功はあると感じました。着任当初はモンゴル側からの日本への販路拡大の問い合わせが9割を占めていたのですが、ここ最近、日本から来蒙されて、モンゴルの企業を訪問したいというお問い合わせも増えてきました。やはり、日本にいて、パソコンの前でリサーチするだけではなく、フットワークを軽く相手国を訪問し、相手の国を知ることからビジネスは始まると思いますし、訪問する中でこぼれ話や本来の目的ではなかった新しい話を聞くことができることも多々あります。当たり前のことかもしれませんが、モンゴルに限らず、海外と取引を希望されている企業は必ずその国を訪問して実際に企業と会って話すことが大前提だと痛感した2年間でした。また海外展開を希望する日本企業には必ず英語のホームページも制作してほしいと思いました。英語のページが無いと、とても良さそうな企業であったとしても外国企業に内容を理解してもらうことができず紹介することができません。是非海外展開を希望されている企業の方は少なくとも英語と日本語のホームページ作成をし、英語でコミユニケーション可能な人材の雇用をお願いします。
つぎに(2)については先にも記述した通り、モンゴルは海の無い国でロシアと中国に挟まれた国です。ですので、飛行機以外の配送手段としては、列車で天津(中国)かウラジオストク(ロシア)まで運んでから船で日本へやってくることになります。それら経由国の影響を受けることになりますし、大陸を横断する分、コストも必然的に高くなります。私は今まで日本が島国であるが故のメリットをそこまで感じていませんでしたが、モンゴルはこの点において地理的に不利であると言わざるを得ないと感じました。
(3)最後に人件費についてですが、JETROの調査3)でウランバートルの人件費を北京、ジャカルタ、ハノイ、ヤンゴンと比較していたのですが、最低賃金はヤンゴンに次ぎ低いものの、ワーカーはジャカルタ、ハノイ、ヤンゴンより高く、管理職は北京に次ぎ高い水準となっていました。最近はベトナム等も賃金が上がって来ているとは聞きますが、これらのことから、モンゴルの製品は日本の企業の方々が思っていたよりも一部コストが高くなり、日本で販売することが難しい場合が見られました。他にもまだビジネスを行う上での様々な課題が両国間にはありますが、日本にはない雄大な草原に、たくさんの家畜たち、そして快適な夏、自然災害の少なさなど素敵な所がたくさんあるこの土地に様々な可能性も感じました。まだまだ色んな発見をしましたが、それは帰国してから是非ゆっくりと話しを聞いてやってください。そして、少しでも興味を持っていただいた方は成田から直行便で約5時間でウランバートルに到着しますので、是非モンゴルへ訪問していただき、チンギスハーンと角界力士以外のモンゴルを知っていただけると嬉しいです。
1)モンゴル国家統計庁、2017
2)主にモンゴル高原に住む遊牧民が使用している、伝統的な移動式住居のこと。日本では、中国語の呼び名に由来するパオ(包)という名前で呼ばれることも多い。(Wikipediaより)
3)JETRO第26回アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較2016年6月