Members Column メンバーズコラム

地域支援の「新しさ」を問う

松原清恵 (Temple University, Japan Campus Adjunct Lecturer)  Vol.680

皆様、日本で最も高齢化が進む町をご存じでしょうか?
アルファ社会科学株式会社主席研究員の本川裕氏は、2020年の都道府県生命表の平均寿命(0歳時の平均余命)を用いて長生きできる地域を割り出したところ、男女の平均寿命の組み合わせの第1位は滋賀県で、男性は82.73歳(1位)、女性は88.26歳(2位)になったと報告しています。ちなみに、女性の平均寿命の第1位は岡山県(88.29歳)との事。他方、滋賀県政府は、「人口減少を見据えた未来へと幸せが続く滋賀総合戦略(令和2年度~令和6年度)」で、2015から2045年の間で高齢化が最も進むのは、湖東地域で多賀町と甲良町、湖西地域で高島市としています。そこで、2023年6月、高島市役所の北條氏(同市民生活部 市民協働課 定住推進室主任)と同市商工会の石田氏(事務局次長・経営支援課長)を訪問し、話を伺いました。

<以下、北條氏>
・高齢化について
「滋賀県政レポート『人口減少を見据えた未来へと幸せが続く滋賀総合戦略』では、本市、甲良町、多賀町が高齢化のスピードが最も速い市町村となっていますが、本市の取り組みは、他の市町村と比べても違いはなく、一般的と言えるでしょう。本市が特に注力しているのは、コミュニティバスの運営とデマンドタクシーです。」

・少子化について
「高齢化は2030年で頭打ちし、少子化は以降も進むようですが、これは本市でも同じです。様々な職種において人工知能やロボットが人間の代替になるという論文もありますし、ロボットが所得税を納めればよいという企業経営者の意見もありますが、本市はそのようなことは考えていません。本市と他の地方自治体との違いは、手厚い子育て支援を行っているところでしょうか。」

・移住者について
「人口の本市の基本的な考え方は減少抑制ですが、同時に、移住者増にも取り組んでいます。令和4年度の本市への移住に関する問い合わせの内訳は、40歳未満が47名、40歳以上が55名でした。高齢者を把握するものではありませんが、40歳未満・以上で大差がないため、年齢に関係なく、本市への移住に関心を持たれている人がいると思います。移住希望地は、琵琶湖の近くが多いのですが、そのような場所は空いていないことがほとんどです。2023年度、JR西日本と共同で取り組む『おためし暮らし』の第二期が始まりましたが、準備した4つの空き家のうち、琵琶湖の近くの2つの物件は入居者が直ぐに決まりました。本市への移住者の職業は、農業、観光業が多いです。他方、本市への観光客は増加しており、業界の需要としてよいのではと思います。移住者の多くは、琵琶湖の美しさに魅かれるようですが、キャンプ、スキーなど森林にも人気が出てきています。」

・空き家について
「空き家の数は300から400あり、そのうちの30が使用されています。田舎らしい暮らしを希望する人が多いです。富裕層の誘致を検討している自治体もあるようですが、本市では、例えば、空き家を別荘にして富裕層に貸し出すことはしておりません。また、別荘建築もしていません。」

・その他
「本市では、リゾートトラスト株式会社(本社 愛知県名古屋市)が完全会員制リゾートホテル『サンクチュアリコート琵琶湖 ベネチアンモダンリゾート』を2022年4月に着工し、2024年10月に開業を予定しています。」

「湖西と湖東との交流については、特段考えておりません。竹生島クルーズの発着点である今津港(湖西)から竹生島を経由し、長浜港(湖東)に向かうことはできます。今津港から長浜港まで1時間と少しです。自動車でも1時間程度要します。」

「地方創生というテーマで滋賀県の補助金、助成金制度を利活用することもあります。主なテーマは、子育て、特産品の海外販売です。」

「廃校になった学校の敷地を活用し、企業誘致活動も行っています。」

<以下、石田氏>
「高島市では、コロナ禍は補助金の申請支援が非常に多く、従来行っていたイベントはほとんど開催することがありませんでした。そのような中、少子化対策の一環として、『たかしま恋むすび』を主催してきました。毎回20名程度の募集で、毎回その程度集まっていますのでそれ相当の効果はあるのではと思っています。経営支援では、創業塾を主催しており、高島市外からの参加者が多いです。参加者の多くは宿泊業、飲食サービス業に従事しており、飲食では特に洋食が多いです。また、コロナ禍では事業再構築を数多く支援してきました。特に農業従事者を支援することが多かったです。」

駿河台大学准教授の前田悦子氏は、日本の高齢者は就業意欲が高く、65歳以降も年金を受給することなく働き続けることが可能な場合が多いとする一方で、高齢者の生活保護受給者が増加していると指摘しています。国際連合の調査では、今後人口は都市部に集中するとも。今まさに、地域社会に対する産学官連携の取り組みに発想の転換が求められているのではないでしょうか。

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