Members Column メンバーズコラム

INS・KNSと出会い、そしてコーディネーターを経験して
金澤健介 (盛岡市商工労働部ものづくり推進課工業振興係長) Vol.757
岩手県盛岡市役所の金澤です。前回のコラム掲載から早いもので3年が過ぎました。令和4年度までは、ものづくり推進課の「立地創業支援室」に6年間所属し、産学官連携(岩手大学への派遣含む)や企業誘致、創業支援を担当していました。令和5年度から6年度までは、総務部職員課で給与制度・福利厚生を担当。そして令和7年度に、ものづくり推進課に戻り、今度は「工業振興係」でIT産業や製造業、地場・伝統産業の振興、工業用地の確保を担当しています。ありがたいことにINSやKNSの皆様とは、平成29年度からご縁をいただいております。
平成19年4月の入庁以降、本コラムが掲載される令和7年7月までの18年4か月間を振り返りますと、商工が最も長く6年4か月間、次いで同率で農林5年間、税務5年間、続いて総務2年間で、産業振興を担当してきた年数は、商工と農林を足し合わせて11年4か月間。気づけば10年超であり、果たして市内事業者の皆様のお役に立ててこれたのかと自問するとともに、あらためて身の引き締まる思いです。私自身は、岩手大学農学部で森林・林業や樹木の生理生態を学んでいたため、農林業について多少の知識はあったものの(とはいえ学生レベルです)、商工業や経済・経営の知識は恥ずかしながら乏しい状況でしたが、10年超の間、どうにか乗り越えてこれたのは、ひとえにINS・KNSの皆様、そしてINSを生んだ岩手県の風土・人柄があってこそと感謝しております。岩手大学に派遣され、コーディネーターとして産学官連携に関わった経験の中では、他地域と比較して、産学官いずれの立場であっても、寄せられた相談に対して構えずに、まずは話を聞こうという姿勢が備わっており、結果的に産学官連携に対するハードルを引き下げていることを実感しました。このことは、東北大学大学院経済学研究科の福嶋路教授も言及しております。(福嶋路.地域中小企業による産学連携の活用.月刊中小企業.1999,vol.51,no.10,pp.24-31.)
岩手大学への職員派遣について、盛岡市は「相互発展のため、文化、教育、学術の分野で援助、協力する」ことを目的に、平成14年に同大学と相互友好協力協定を締結し、さらに平成19年からは共同研究契約を締結することにより、市職員を「共同研究員」として派遣しております。加えて、インキュベーション施設である「盛岡市産学官連携研究センター」(通称コラボMIU)を大学構内に開設するなど、着実に学官連携による産業振興、ひいては地域振興に取り組んできました。特にコラボMIUは、同施設への入居促進により、大学の研究成果をもとにした企業への技術移転や新規創業支援、研究開発型企業の誘致を図りながら、技術の高度化や企業の市内立地を推進するとともに、誰もが自由に参加できる交流の場(MIUカフェなど)の提供により、入居者や大学教職員・学生に留まらないコミュニティの形成に寄与し、新たな連携も推進しています。
共同研究員は、大学職員としての身分も併せ持つ者であり、盛岡市の場合は「産学官連携による産業振興」を研究テーマ(活動目的)としていることから、その実態は研究員よりも、大学付コーディネーターといえます。私は盛岡市役所6代目の共同研究員で、32歳から2年間の派遣でした。派遣経験を踏まえた考察については、日本初のシリコンバレー型インキュベーションマネージャー・コーディネーター(以下「IM・CD」という。)である佐藤利雄さんと、KNS世話人の一人である吉田雅彦さんの共著「起業・企業支援の実践」に寄稿させていただきましたので、詳細はそちらに譲ることとし、ここでは概要を述べることとします。(こちらの寄稿を踏まえ、市町村職員向け研修施設である市町村アカデミーで、事例紹介させていただけることとなりました。)
https://www.jamp.gr.jp/training2025/2512012/
産学官の各主体が連携に至る過程においては、IM・CDによる「仲間(共感者)づくり」が重要であり、その勘所は次のとおりと考えます。
1 目的の明確化
2 IM・CD自身の強みの分析(差別化)
3 多様な主体の把握
4 主体間交流の推進
5 連携の実施
中でも、多様な主体を把握し、主体間交流を推進するうえでは、INS・KNSに代表される産学官民コミュニティの存在を欠かすことができません。このコミュニティの素地は、当事者が意識していないだけで、規模感を問わず、すでにどこにでも存在しています。例えば、業界・団体の役員や学識経験者も含めて構成される行政主催の会議もその一つであり、さらには、地域活動や子育てを通じて得られた関係性、同窓会、行きつけの居酒屋の飲み仲間なども、コミュニティの素地といえます。これらにいち早く気づき、必要に応じて当事者に仲間意識を持たせ、連携につなげることもIM・CDに求められるスキルの一つと考えられます。
最後に、岩手大学への派遣を通じて、市役所のデスクワークのみでは得られない貴重な経験・人脈をとても多くいただきました。岩手県を代表する偉人の一人であり、岩手大学農学部の先輩にあたる宮沢賢治(佐藤利雄さんと同じ花巻市出身)が、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という言葉を残していますが、これは一生懸命に起業・企業支援に取り組むIM・CDの基本理念ともいえます。今後もこの理念を忘れることなく、「仲間(共感者)づくり」に取り組んでいきたいと思います。そして何よりも、このコラムを読んでいただいた方と新たに交流できるかもしれないことがとても楽しみです!
【似顔絵】
盛岡市内企業である株式会社ヘラルボニー様(カンヌライオンズ2025金賞!)の旗艦店ISAI PARKで行われたマルシェイベントで、同社契約施設である多夢多夢舎中山工房様の所属作家 中島敏也さんに描いていただきました。しっかりと特徴を捉えていただき(笑)とてもお気に入りです!