Members Column メンバーズコラム
大和五條発、(資源)、(人材)活用実践中
伏見良治 (NPO法人 五新線再生推進会議) Vol.383
物事が始まり、展開していくには幾つかの条件がある事をNPO法人五新線再生推進会議の立ち上げからの4年間を通じ実感致しました。事を始める際には納得できる“目的”と”目標”が設定され、それに即した”戦略”と”戦術”が立てられている事は必須ですが、それを行う”人”が最重要となります。
1)始まり
あるセミナー懇親会で奈良先端大副学長、新名惇彦先生の「五條に蒸気機関車を走らせたい」の一言が始まりでした。有志で現地を見学に行き、五新線沿線、奈良県南部の素晴らしさを実感すると共に、山村が直面する問題点、想像を超えた荒廃を目の当たりにして絶句致しました。
川瀬直美監督の「萌の朱雀」とバス専用路線で知る人ぞ知る五新線は、奈良県五條市と和歌山県新宮市を結ぶ路線として県す津が始まりましたが、完成せず地域に貢献できぬまま放置され、崩壊の危険も孕んだトンネル等の路線設備は地元にとって「負の遺産」となっていました。更に、バス専用路線の廃止も荒廃に拍車をかけます。嘗ては重要産業の林業も市場ニーズの変化や後継者不足によって場所によっては間伐等の作業が滞り、災害時の被害拡大を招く負の遺産となりつつあります。
地域の特性を考え「五新線跡」、「負の山林資源」という遺産2つを相補的に利活用し、地域活性化を行う戦略を立てる事に致しました。
2)鉄道イベント
五新線、五條を(来て)、(知って)、(好きに)になって貰う事を目的とし「五新線跡」で家族が楽しめる鉄道イベントを考える事にしたのです。子供の頃に遊んだ「小さな鉄道玩具」を鉄道跡地に走らせ、次は跨って乗れる「大きな鉄道玩具」、最終的には物資輸送も可能な「小さな本物」を走らせる戦略を立てました。
市場調査を兼ね、あわよくばレールの提供を頼もうと玩具メーカーの大人気展示会を見学したのですが・・・「レールの提供などもってのほか、商標名を使うことも禁止」という答えが返ってまいりました。
計画は急停車、しかし救世主が現れます。地元木製インテリア製造会社HAUSEX社の中村会長が木製レール1kmを無償で材料提供・加工してくださったのです。その木製レールを「木レール」と名付け、実用新案も取得いたしました。更に、人が跨って乗車できる5インチ軌道の愛好家が協力を申し出て下さり、2014年7月、賀名生でのイベントには参加者が300人、続く2015年は400人。2016年、城戸での第3回は奈良県地域創生サポート基金の助成を受け、林野庁後援の「Wooddesign賞奨励賞」を受賞し、ボンネットバス走行や20以上の地元屋台が出店してくれました。「日本土木学会選奨土木遺産」に選ばれ、今年3月には『国土交通省フォーラムin五條』と銘打ち、国土交通省、五條市の共催で二日間、初日は「全国未成線サミット」、二日目は「第4回木レール」を開催し1300人あまりの参加者を数えました。
3)木質バイオマスによるエネルギーの地産地消
負の遺産、間伐材もバイオマスエネルギーとして利活用に目処が付きました。五新線の長さ500mのトンネル内は年間を通して14℃、間伐材利用の給湯で椎茸栽培に最適な22℃に保つ事ができます。地元の農業団体の協力でトンネル内で100%五條産椎茸を栽培し、利益と雇用も創出されつつあります。今後、大阪大学の研究室と共同し西吉野で間伐材を用いた公共施設への給湯と発電も併用しエネルギーの自給自足も目指して参ります。小さな地点のエネルギー自立は災害時電源確保にも繋がり、その地点の数を増やす事で地域の災害時危機管理ネットワークができると考えております。
4)ユーカリ・秋桜の栽培
針葉樹育成には60年が必要となりますが、ユーカリは5年で材として利用可能になります。HAUZEX様よりお借りしているNPO事務所及び会員所有の土地でユーカリの育成実験を始めました。企業より頂いた種類の異なるユーカリ200本の中から、五條での生育に適したユーカリを見出せることを期待しております。
また、温暖化の影響でソメイヨシノ開花に異変が生じており、それに替わる桜として春と秋に花を咲かせる桜の生育実験も始めました。
4)日本茜栽培
江戸時代、日本茜による茜染めは五條名物で浄瑠璃の演目にもなっておりますが、五條の日本茜は絶滅致しました。しかし、五新線沿線で日本茜の自生が確認され、NPO会員が各々の得意分野を用いて日本茜の栽培を検討しております。現在主流のインド茜ではなく日本茜を用いた茜染め復活を目指しております。
5)GOJO大学
本NPO会員及びその人脈を用いて、五條の歴史、iPS細胞等の最新技術を五條市民へ紹介することを目的とし、3ヶ月に一度、GOJO大学を開催しております。大和五條で文化と世界最先端科学が学べます。
6)宇野峠PJ
伊勢街道沿い自然に恵まれたNPO事務所付近15,000坪で五條の名産品を味わい、グランディングやBBQ等を楽しんでいただくプランが出来上がりつつあります。来年以降、五條新町や南朝遺構の歴史を散策した後、五條ブランドの味を楽しみながら、ゆっくりと非日常を過せます。
「五條に蒸気機関車を走らせたい」から始まった活動は、4年間でエネルギーと農業による産業の創生、更に歴史、文化も含めた活動へと展開致しました。全ての根幹は“人”の繋がりだと再認識した次第です。