Members Column メンバーズコラム
地方創生ってこういうことなんだろうな。
倉本和泰 (阪急阪神不動産株式会社) Vol.545
私はスマートシティとはGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)やBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)に代表されるようなプラットフォーマー企業や不動産デベロッパーやインフラ企業が主導する「新たな街」を創ることだと理解していた。一方、私は仕事の関係で長年大阪・梅田の街づくりに関わっており、最近世間で話題のスマートシティという新しい街づくりの手法を梅田に落とし込めないのかを考えていた。そんな最中、知人から会津若松でスマートシティを実施しているアクセンチュアの話を聞いた。アクセンチュアは会津若松という既存の地方都市でデジタルシフトを推進し市民に支持されるスマートシティの実現を目指しているとのことである。
それは、東日本大震災の復興事業として2011年からスタートした会津若松市、会津大学、アクセンチュアによる産官学金労言連携のスマートシティプロジェクトである。人口12万人程度の小さな街に最先端のインテリジェントオフィスビルが建ち、アクセンチュアやソフトバンク、三菱商事、NECを始めとする数十社総勢500名規模の機能移転があり、そこではパーティションのない空間で企業間の垣根無く各種ICTプロジェクトに取り組んでいるとのことである。また、会津できめ細かいサービスを提供するプラットフォームの成功例を作りそのデジタル基盤をOS(「都市OS」)として国内に普及させることを目標としているとのこと。にわかに信じがたいことであったが、合わせて紹介されたアクセンチュアの担当者が執筆している「都市再生を加速する都市OS」という本を読んで、大いに腹落ちした。非常に面白い試みである。
スマートシティの戦略にはマイナスを削減する戦略とプラスを創出する戦略の両方が必要になる。多くのスマートシティプロジェクトではマイナスを削減する戦略であるCO2削減などの環境対策が先行し、市民を巻き込むことが出来ていない。アクセンチュアが描くスマートシティは環境対策と同時に、「市民から見て住みたい街か?」、「企業から見て立地したい街か?」、「旅行者から見て訪ねたい街か?」を見直すことでプラス面を強化する戦略をとっている。アクセンチュアは言う。「衰退する地方都市を復活させ、選ばれる街にするには高付加価値の仕事を創ること」だと。つまり、工場の誘致などで用地の無償貸与や固定資産税の減免、人件費の安さをアピールするだけでは若者の都市部流出に歯止めがかからず益々都市部との格差が広がるだけであり、地方創生は「高付加価値の仕事を作ること」により実現できるという。高付加価値でなければ若者が望む就職先になり得ないという。また、前述の「都市OS」はGAFAやBATに肩を並べられる日本版のプットフォームになり得るという。これは、グーグルがトロントで進めていたスマートシティプロジェクトが市民の反対で頓挫したこととアクセンチュアの会津若松で成功していることからあながち荒唐無稽な発言ではないと思っている。日本の地方都市から始まった「都市OS」が世界を席巻するかもしれない。
私は鉄道会社に就職し沿線の駅を中心とした「コンパクトシティ」整備を行政と取り組んできた。大阪・梅田では「エリアマネジメント」という街の価値を維持向上させるための活動を10年以上前から取り組んでいる。一方で、例えばNTTが「ICTで街の課題を解決します」というCMを見てもピンとこなかったし、トヨタやグーグル、サムスンがスマートシティを作ると発表しても、我々の街づくりの思想とは相いれないのではないかと思っていた。でも心のどこかで街づくりのゲームチェンジャーが現れたのではないかと不安を覚えたのも事実である。今回、この本を読んで自分なりに調べていくにつれ、彼らの言う「スマートシティ」は我々の進めてきた「コンパクトシティ」や「エリアマネジメント」と概念は同じであるものの、情報の発信やそれによる住民や事業者、若者へのベネフィットを目に見える形で分かりやすく提供しているところが彼らの強みだと理解できた。我々に足らないところだ。一方、我々デベロッパーはステークホルダーとの「ウェット」な関係を構築するのを重視しておりそれを得意としている。これは彼らが苦手とするところだ。また、我々は鉄道の乗降客や商業施設のポイントカードなど膨大でリアルなビッグデータを既に有している(これらのデータはGAFAが喉から手が出るほど欲しているデータだ。彼らはリアル(人間の行動様式)を押さえていないのが弱みと分かっており、「Amazon GO」などリアルへの進出を試みている)。我々と彼らがインテグレートすることで様々な課題解決が一気にブレイクスルー出来るのではないかと思っている。更にその「都市OS」が広くあまねく各都市を繋いでいくと、アクセンチュアが言うようにGAFAやBATを凌ぐ巨大なプラットフォームが出来るかもしれない。そうなれば痛快である。