Members Column メンバーズコラム
木材製材所「タリモール」から学ぶ、都市と森林の関係。そしてコミュニティー形成の役割と重要性を知る。
盛世匡 (アルテ・アパン) Vol.781
日本における自然資源、生産、消費という消費社会のサイクルが、どう日本全国の自然生態系や自然環境に影響を及ぼしているのか、生産と消費の観点から、生活と都市と森林の関係性を繋ぐHUB(ハブ)としての製材所「タリモール」から学ばせて頂く貴重な体験を、香港から設計課題のために来日された香港中文大学の建築学部の学生達を引率して訪問させて頂いた活動録を、KNSメンバーの皆様と共有させて頂きます。
日本における都市人口の割合は全人口の約92% (2024年時点データ)と9割を超えています。この割合は世界的に見てもかなり高い水準であり、他国の世界平均は約55~60%程度と比較すると、日本がかなり都市に人口が過密化していることがわかります。つまり、多くの消費行動が都市部で行われていることになります。
建築構造の観点では、高層マンション、商業ビル、低層アパートや個人住宅において、ほぼ鉄骨や鉄筋構造、コンクリート造が主流です。効率化する建築工法に伴い、木材の使用・消費量は年々減少の傾向にあります。
また、海外からの輸入材と国産材の比率からみると、建築用材としてはほぼ50%(2022年林野庁統計データ)が国産材を使用しています。
皆さんもご存じの通り、日本の森林面積は国土の約3分の2 (約67%)を占め、先進国の中でもフィンランドに次いで森林率が高い「森林大国」なのです。
国有の資源である木材をどう活かすかを現代の新しい眼を通して再考することで、社会課題である「都市の過密人口問題」、「大量消費社会」、「石化燃料、石油化学材料が原因となる環境問題」、「輸入資源、輸入生活品に頼る消費社会構造」などへの解決策が生まれてくるのではないでしょうか。
こういった社会課題に真剣に立ち向かうべく、生活と都市と森林の関係を木材の供給・生産(もの作り)という行為を通して触媒機能を司る新しい循環のかたちとして、創造的コミュニティーの場、ネットワーク形成のための場が南河内郡太子町にある「タリモール製材所」です。
タリモール製材所の活動は「地域材活用の推進」、「建築資材以外の活用」を積極的に模索し、「食品ロス × 木材」や「アパレル × 木材」など、異分野との「コラボレーション企画」を通じて木材の新たな価値を創造しています。
これまでの縦割りの卸業の資材供給ではなく、横軸に展開していく他業種や多様な技術との交差、融合、共同製作といった多重構造的な創造的社会活動と言えると思います。
では、何故、アジア屈指の名門大学である香港中文大学(CUHK)建築学科の教授・学生チームが、大阪府羽曳野市の田中製材所/タリモールを訪問したのか?
なぜ小さな町の製材所を「コミュニティの教科書」として選んだのか、当日のセッション内容と、そこから見えてきた「これからの組織・コミュニティの在り方」について詳しくレポートします。
香港中文大学の学生が与えられてた課題は、日本企業の施設開発プロジェクトにおける「理想的なコミュニティモデル」のリサーチと、分析した結果を設計課題に落とし込むといった内容です。
日本企業が求めたのは「単なる建物(ハード)ではなく、人々が有機的に繋がる地域コミュニティの在り方(ソフト)からの提案」でした。
タリモール製材所代表の田中氏からの提案で3つの体験が今回の訪問には組み込まれていました。
テーマ1:ハードとソフトの共存
田中製材所は、製材という「ものづくりの現場」でありながら、木工職人やアーティストなどのクリエイターが共存するシェアスタジオ「タリモール」を併設しています。
この特徴が評価されたポイント
” 製材所(ハード)の中にクリエイター(ソフト)が共存している
” 「木」という素材を通じて、生産者と生活者が繋がる生態系が存在する
” 教科書上の理論ではなく「実装されたコミュニティのリアル」を確認できる
テーマ2:「関係性先行」の哲学
studio ARRTディレクター:盛が田中製材所を推薦した決め手は、独自の「関係性先行(Relationship First)」という哲学でした。
訪問は「現実(Real)→ 成果(Outcome)→ 理想(Ideal)」という3段階のツアー形式で実施されました。
第1部:The Real(現実)
製材工場見学とアトリエ巡回
訪問した学生達は、製材工場で丸太が挽かれる音、木の匂いなど、木材が生まれる工程を肌を通して体感しました。続いて、タリモールに入居する木工職人やアーティストのアトリエを巡回。素材がクリエイターの手に渡り、作品へと昇華されるプロセスを目の当たりにしました。
第2部:The Outcome(成果)
地域に実装された空間体験
工場見学の後、田中製材所がフローリング材を納入した近隣の古民家イタリアンレストランへ移動。木材が実際にどのような空間を作り出し、人々がくつろぐ場所になっているのかを、食事を通じて五感で体験しました。
学生たちにとって、素材(工場)と空間(レストラン)が一本の線で繋がった瞬間でした。
第3部:The Ideal(理想)
ディスカッションセッション
近隣の古民家「ハナレ」にて、この日のメインイベントであるディスカッションが行われました。タリモール製材所の代表である田中氏からのお言葉がとても学生達の印象に残りました。
“ビジネスよりも「関係性」が先にある”
「ビジネスありきで繋がるのではなく、『この人おもろいな、おもろいアイデアだな』と思って仲良くなる。関係を作ってから仕事をするんです」
この「関係性先行」の哲学は、単なる精神論ではありません。スペックではなく人間関係をベースに仕事が回る仕組みこそが、コミュニティの熱源となっています。
テーマ3:スタジオシェアリング
タリモール製材所では、各々の製作者やクリエーターが、常に様々な製作案件を持ち込み、アイデアを出し合い、感化しあい、時には共同で製作に取り組むこともあります。スタジオシェアリングというコミュニティーの場におけるメリットが、分断された社会構造へのアンチテーゼとして、またはカウンターパンチ的な創造的提案として活きています。これまでの社会構造基盤によって決められた効率優先のルールにはまらない相互的創造思考(インターディシプリナリー)による解決策を提示しているのではないでしょうか。
タリモール製材所での体験や共に交わしたディスカッションから、学生達のこれからの設計課題の空間プログラムのヒント、コミュニティー形成のアイデアの触発になればと思います。
タリモール製材所では、企業やクリエーターをお招きしてのオープンファクトリーツアーも主催されています。(訪問目的や内容により有料)
タリモール製材所の仲間と共に創作活動をお考えの方は、田中社長にご相談してみては如何でしょうか。
***注釈***
一部、 田中製材所/タリモール製材所のウェブサイトより掲載文章を引用させて頂いております。代表:田中社長様に引用許可済み。
