Members Column メンバーズコラム

地域資源としてのサッカークラブ

丹生晃隆 (宮崎大学)  Vol.714

〇はじめに 地域をフィールドとした実践活動

 筆者が所属している地域資源創成学部は、講義に加えて、宮崎県全域をフィールドとした実践活動にも力を入れている。1年から2年前期までは、地域の企業や団体を対象とした集合実習となるが、2年後期からは、ゼミ単位での実践活動となる。ゼミ担当教員としては、自身の専門領域や学生の興味関心を踏まえつつ、連携に理解のある企業や団体を常に探しながら、実践活動のテーマを設定する必要がある。当ゼミでは、これまでに食品製造企業と連携した市場調査やSNSマーケティング、地域資源を活用した新商品のニーズ調査、商品PRのための動画制作、商店街の活性化策の検討などを行ってきた。

 

〇地元サッカークラブとの連携

2019年度から取り組んでいるのは、地元宮崎県のサッカークラブとの連携である。サッカーが好きなゼミ生2人から、「地元のクラブを応援したい」、「ゼミ活動として何か一緒にできないか」と相談があったことがきっかけである。筆者自身は、サッカーといっても日本代表戦を見る程度でそこまでの関心はなかったのだが、学生から相談があった際、「何か面白いことができるかもしれない」と直感した。正攻法として、クラブの問い合わせ先にメールを送ったところ、快くご返信をいただき、2019年4月に最初の打ち合わせを行った。連携先の地元クラブは、当時、日本フットボールリーグ(JFL)に所属し、2019年2月に「Jリーグ百年構想クラブ」の認定を受け、J3を目指していた。Jリーグ参入には、財務状況や運営体制、JFLでの年間順位4位以上といった条件があり、平均入場者数もその一つだった。大学生のファン・サポーター層を増やしていくことは、クラブ側にとってもメリットがあることとご理解いただき、当ゼミとも連携の方向性がマッチした。

 

〇これまでの活動概要

 連携初年度の2019年度は、大学生と選手が一緒にサッカーゲーム(ウイニングイレブン)をプレイすることで交流するe-Sportsのイベントを開催した。イベントを通じて、選手と触れ合うことでクラブに興味を持ってもらい、試合観戦に足を運んでもらうことを狙いとした。イベントには、関係者を含めて約80名が参加し、実際の試合会場さながらにどよめきと歓喜があがって盛り上がった。

2020年度は、新型コロナウィルスのため、活動に一部制約があったが、オンライン上で選手と学生が交流するイベントを開催した。具体的な内容として、選手と学生数名でグループをつくり、交流をしながら、クラブの公式YouTubeチャンネルに投稿する動画の企画を考えた。発表した7つのグループのうち、SNS投票1位を獲得したグループの企画について、実際に動画を撮影して公開した。

2021年度は、宮崎大学の大学生を対象とした応援バスツアーを開催し、27名が参加した。大学側で交通手段を確保し、参加型企画にすることで、大学生がイベント感覚で参加してもらうことを見込んだ。観戦した試合も勝利し、学生にサッカー観戦を身近なものとして感じてもらうことができた。

2022年度は、同時進行で2つのプロジェクトを行った。2年生は、選手×大学生×出店飲食事業者が考える「ここでしか食べられない」メニューとして、グルメ商品(計5品)を開発し、観戦来場者を増やすきっかけをつくることを目指した。地元TV局でも紹介されたこともあり、販売開始前から注目を集め、ホーム最終戦では販売開始後1時間あまりで完売となった。

3年生は、大学の周辺地域の一般の方々も含めてクラブのことを広く知ってもらう機会の創出を目的として、ファンミーティングを開催した。イベント内容として、選手参加によるクイズ大会、ミニサッカーゲーム大会等を行った。当日は、学生と一般参加者を含めて約100名近い参加者が大学に集まった。

2023年度は、観戦来場者を対象としたアンケート調査を行った他、シーズン後半に大学で交流イベントを開催した。具体的な内容として、選手やトレーナーに「先生」として大学に来ていただき、講義や座談会を行うことで、最初のきっかけとしてクラブや選手を知ってもらうことを目的とした。座談会では、選手個人に対して、サッカーに限らず、趣味などについて、学生から様々な質問が投げかけられた。

 

〇地域資源としてのスポーツクラブ

本来、学生が主役である実践活動ではあるが、実は誰よりも楽しみ、まさしく自分事としてクラブを応援しているのは、かくいう筆者自身である。

「地域に根差したスポーツクラブは、地域資源の一つでもあり、スポーツクラブが地域とともに発展することで、地域の発展や活性化にも繋げることができると考えられる」

以上は、活動開始当初に筆者が作成した「標語」のような文言である。多少なり地域資源を拡大解釈していたかもしれないが、現在では、スポーツクラブは、スポーツツーリズムだけでなく、地域活性化の大きなポテンシャルを持った地域資源であり、社会課題解決の一つの切り口にもなり得ることを実感している。大学生は、勉強にアルバイトにプライベートに忙しく、サッカー観戦へのハードルはまだまだ高いが、5年間の活動を通じて手ごたえも感じている。

応援する地元クラブは2021年度にJ3リーグに昇格した。ここ数年は下位グループに位置しているが、さらなる「上」を目指している。筆者もサポーターの一人として勝ち負けには一喜一憂するが、応援できるクラブがあることは素晴らしいことであり、まさに「今ここにあるサッカー」を愛している。今後も学生とともに精一杯応援していきたい。

2024年3月10日、Axisバードスタジアム(鳥取市)にて撮影

アウェイ観戦の楽しさにも目覚めました。来年は、花園、奈良にも行きたいです!

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