Members Column メンバーズコラム

最近思う、会社経営するのに色々なスキルや根気が必要すぎる

井上佳宣 (㈱井上模型製作所)  Vol.732

 皆様大変お世話になっております。㈱井上模型製作所 代表取締役社長井上佳宣と申します。
 KNSには2008年の第23回尼崎定例会から丸16年もお世話になっています。当時は37歳だったのですがもう53歳になりました。
 2025年の6月で社長になって11年になりますが、会社経営って本当に難しいと感じる機会が増えています。
 弊社は創業54年の切削加工を行う部品加工の会社です。只、製作物はその時々で変化しています。 その時代のテクノロジーによって、今まで必要とされていた物が必要無いと言われる事を数回経験しています。
 創業時はパナソニック様の白物家電の外装の試作部品を作る会社でした。2000年代までは作っている物に大きな変化は無かったのですが、2010年くらいにパナソニック様からの仕事が減ったので理由を聞くと、試作を作らないでいきなり金型を作るやり方に変わると聞きました。今まで試作を作って実験を繰り返していたのになぜそんな事が出来るのか調べて見ると、スーパーコンピューターによる解析で設計に問題が有る所が分かるようになったらしいのです。 画面の中で形状のトライアンドエラーが出来るようになったので試作品が要らないのです。ピーク時は炊飯器、掃除機、洗濯機、アイロン、トイレ便座、IH調理器、AV機器、電子部品、研究開発と9事業部から頂いていた仕事が急激に減っていきました。
 何か別の事をしなくてはと展示会に出展し、経営者仲間や行政の支援施設の方たちにも支えられ、自動車やFA関係の試作の仕事につながりました。品質管理や金属の加工に悪戦苦闘しながらある程度上手く行っていたのですが、次は2016年~2017年頃に3Dプリンタブームが起こります。この業界が長い人たちでもCADデータが有れば物が出来るのだから貴方達の会社は厳しくなるなんて言われ始めました。実際に使用用途も決まっていないのに全部署に3Dプリンタを配備したとおっしゃる大手さんまで現れました。
 数年かけて徐々に仕事が減っていき2020年のコロナでまたもやガクンと仕事がなくなりました。人が集まれないのでリモートワークが中心になります。それなら試作品はもう必要ないですよねと、無理してもリモートで開発を進めようと試行錯誤されたと聞いています。
 その結果、絶対に作らないといけない試作品は作るが、作らなくても何とかなる試作品は無くなって行きました。もう試作だけでは食べていけません。部品加工の仕事を受けようとしますが、何十年も部品加工で頑張って来た他社にコストでも品質管理能力でも簡単に勝てる訳がありません、おまけに社内ではこんな安い仕事ばっかり取って来て、社長はこの会社をどうしていくんですか、あなたは未来へ続く道筋を示せていない等と社員が一人、また一人とやめて行きます。 会社の口コミには、雰囲気が最悪、同族企業の成れの果て、やりがい搾取会社、なんて書かれます。
 自身も心の中では今まで食べていたメインの商品が減っていったら業績も悪くなるって、俺も何やったら良いか分からんて、なんて思いますが、口にすると社員さんを余計に不安にするので言えません。
 でも、24時間会社の事を考えていると案だけは思い浮かびます。その中で始めたのが在宅ワーカーを活用して営業活動を行う事でした。 何らかの事情が有りフルタイムで働く事は難しいが営業技術を持たれている方に業務委託して電話営業を行いました。3年間での約16,000件の会社様に電話をかけ、興味が有ると資料請求いただいた会社様は約4,000件に達しています。これだけ会社資料を送ると、私たちの会社に可能性を感じて頂ける会社様も出てきます。設備や人員配置、今までの事例を丁寧にお話してお仕事を頂きます。当然初めてのお付き合いなので不慣れでご迷惑をお掛けする事も有ります。お仕事を一度頂いたのに現在は頂けなくなった所も有りますので実力不足だったのでしょう。只、以前より自社に合った仕事がしている実感は有ります、売上はコロナ前に近づきつつ有ります。財務的には安定してきています。
 最近の悩みは人の問題です。自社の社員さん達が弊社よりも他社で働いた方が良いのではと思い出している節が有るのです。政府が賃上げを声高らかに言うので社員たちも給与が上がるのではと、面談時にうちは上がらないのですかと聞いてきます。上げられる物なら上げたいけど目一杯出している状態です。ビジネスモデルを進化させなければいけないのですが、デフレ時代に生きてきた社員さん達にはそれは社長が考える事と受け身です。
 だから勢いの有るビジネスを行っている会社に行く方が良いのではと考えてしまうのです。
 CMで良くやっている有料のスカウトサービスに申し込み、良いと思う人にマッチングしてもらったのですが、希望年収を聞くと弊社の社員よりも多くの年収が欲しいと言う。その人がその年収を上回る程稼いでくれるという保証も無く、雇ってしまえば解雇も出来ず、不良債権を抱える可能性も有りますし、自社のエース社員を上回る年収を出し、それが社内で分かった時、なぜ私達より給料が高いんだと組織崩壊するのではと考えたらリスクが大きすぎて雇う事も出来ません。
 設備投資でIT化、無人化を進めていますし、事務系の間接業務を棚卸しして在宅ワーカーに業務委託しています。入力作業や納品書の発行、送り状などは佐賀県からPCを操作して社内の複合機から出力されてきます。在宅ワーカーの人には家で稼げるから有難いと言ってもらえていますし、オフィス業務はかなり効率化が進んだと思います。
 給与や賞与も去年よりも上げていますし、休日も5日増やした。決算時に良かったらあと2日くらい増やしたいとも思っています。
それでも社員さんやパートさんからもっと給与を上げられるのでは? 他社ならもっと給与もらえるのでは? と思われていそうな気がします。
 反面、この課題を解決していく為に、こちらとしても社員さんへの要求度が上がって来ています。でも今の時代、責任を持ちたくない社員さん、現状の仕事のやり方を変えたくない社員さんがいます。このまま政府が最低賃金を上げ続けると、掃除にさえ高い賃金を払う必要が出てきそうです。業務用ルンバを買うしか無いと思いますが、その後の掃除の人の配置転換はもっと大変です。掃除や単純労働しか出来ない人にAIを使ったシステムを使ってとお願いしても使用出来る訳がありません。キーボードを打つ事さえ苦労しています。
 その人たちはどうやって食べさせて行けば良いのでしょう。ある程度の時間をかけて計画的に行わないと変化に対応出来ない人が仕事からあぶれ、変化に対応出来ない会社が無くなって行く未来が見えます。
 当然、私たち経営者はもがき、会社が潰れないように何とかしようとすると思いますが、変化に強い人を育てる時間が必要だと思います。この間まで変化しなくても良いデフレ社会だったのです。一時期より社員さんが退職する事が怖くありません、これは給料を上げつづけろ、休みはもっと増やせと言われる事が厳しく、人が減った分だけ責任が減るから楽だと潜在的に思っているのかもしれません。元気が無くなっていると思われるかもしれませんが、私自身は全くめげていません。これからもAI化、IT化、無人化を進め、社員さん一人一人の収入が増えるよう良い会社にして行くべく頑張りたいと思っております。

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